短編 ベリキュー2

□時の灯火 4
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かき集めた力を使って入った空間は
時が止まった少女が二人いるところだった。






【時の灯火 4】







みんなで輪になるように座って
…気まずい。



「あのですね、お話が」
「わかってます、祓い屋の方でしょ?」



どうやら、筒抜けのようだった。
背の高い彼女もとい矢島さんは物珍しいのか


きょろきょろしているし。




どこから、どう進めていいか絶賛迷い中だったりする。





説得するために話していくと
高校生くらいの子がキャンキャンと噛み付いてくる。

それに気をそらされていたけれど
ふと、視線をたどれば…



おかしなものを見るような目でももをみる
矢島さんが出来上がっていた。


ついでにみやがそれをみて笑ってるし



「…ちょっと、みや。知ってたなら教えてよ」
「だって、どうにも出来ないじゃん」

「…こっちが先だね」
「うん」



とりあえず、対象には待ってもらう事になった。



「みや、この子、力は強いの?」
「強いよ」


…なら、なんで見えないのよ!


「え、あ、あの…」
「大丈夫ですよ、出来る限りは力になりますから」


営業スマイルで返して


おどおどとしだした
この子は置いておいて話を進めていく。


「で、見えないと説得のしようがないもんね?」
「そうだね」



みやを見やるとごそごそとなにかを取り出す仕草をしていた。
ももには出来ない事もみやなら出来たりするから

今回は助かったみたい。



「じゃぁ、これを食べてもらえる?」
「…」


みやが矢島さんに袖からだした
おまんじゅうを差し出した。


「…矢島さん?」
「…これ…食べなきゃダメですか?」


食べてはくれないようだ。


それを見ていた対象がくすくす笑っていた。


「どうかしました?」
「いえ…さすがの舞美ちゃんも大人になるのだなと思って」



溢れるような幸せって気持ちがももにまで届く。
よっぽど仲がよかったのが伺える。

あれ、でも…これヒントもらえるんじゃないの?



「あれを食べさせたいんだけど、どうすればいいかわかる?」
「私といた頃はもっと無防備だったの、今はわからない」



ヒントは残念ながら得られなかった。



「ももーどうしよー」
「うーん…」



あるには、ある。
封印はかけた本人か同じくらいの力を送り込むことで

とけるようにかけられている。


みやは食べ物に調整しながら注ぎ渡そうとしたけど
食べてはもらえず、あと出来るのは無理やり注ぎ込む事。


昔、ももが妖力もらったときのように


深いキスをすればとける。



それはみやもわかっているのかももをちらっと見て



「…もも、これは仕事だから不可抗力だからね?」
「…」


みやは終わったあとを心配しているのだろう。


「もも?」
「もーわかったからなるべく早く終わらしてね」



そういえば、安心したような顔で頷いた。
ふとした時にする顔は年相応なんだよね。



「これを食べるか、うちからのキスを受けるかどっちをとります?」
「え、え、いや…あの」



まぁ、そんな聞き方をすれば困るのは当たり前だよね。


「さぁ、どっち?」
「…私、相手いるのでそういうのは…」



「恋人って女の人なの?」


疑問に思ったことを聞いただけだった。
だって、男性だったらまだしも女性のみやを拒否する意味はない。


「うんん…いない」
「今、相手いるっていったじゃん」


今度はみやがこの子は話していけばいくほど
ボロが出てくる。


「うん、でもいるの」
「え、どういうこと?」


みやからキスされたくないだけかと思いきや
流れ込む感情は見えてこないだれかをとても大切に思っていた。



「…嘘つくほどうちのこと嫌なんだ…」
「違うみたい、本当にいる」



落ち込みを見越したももがみやに伝えると
みやは難しい顔をし始めた。


「…ねぇ、…えっと名前なんだっけ」


対象を見てそういいだした。


「愛理です、鈴木愛理」
「愛理ちゃんね、そっちの君は」



愛理と名乗った少女の隣で不機嫌そうな
顔をしつつ名乗ってくれた。



「岡井千聖…愛理様の側近です」


しかも、丁寧な挨拶をしてくれて
こちらもしざる得なくなったのは想定外だった。




「愛理と千聖に聞きたいことがあっていいかな?」




みやの真剣な声に飲まれ始めた二人は顔を見合わせて
こくっと頷いた。





































なにがなんだかわからないけれど
なにもない場所に急に質問を始めて嗣永さんまで


そっちを向いてしまった。



…なにも見えないのに…そこに何かがあるように見え始めて。
でも、何度見てもなにもない。


それでも、二人の視線は同じところを指していて
昔話にでも入り込んだような錯覚に陥っていた。




「残された方法はこれしかないの」
「みや、それほんと?」

「感じるんだから信じるしかないじゃん」
「う、うん…でもそれって」



会話に入れなかった私に聞き覚えのある単語が耳に入った。




「愛理、お願い術を解いて」




――舞美ちゃん。



声がした。
一瞬だけだった、でも私にはそれだけで十分だったんだ。






溢れ出る記憶に私は捕まった。









ーーーーーーーーーーーーーーーーー





愛理と話しているとどさって音とももの慌てた声に
振り向けば、矢島さんが倒れていた。


「え!なにどうなってんの!?」


矢島さんに手を当てていたももが呟いた。
その一言は今、一番聞きたくない一言だった。



「自力で思い出して…記憶に引きずられたみたい」


「記憶に…ですか?」
「そんなこと人間にあるわけ…」




青くなっている愛理に認めたくない千聖。



「このままじゃ目覚めることはないと思う」
「夏焼さん…力を貸してください」



そういった愛理の横で仕方ないなって顔してる千聖。
どれだけの時間を二人で超えてきたのだろう。

分かっていても、きっと想像もつかないような
そんな流れに身を置いてきたんだとうちともものように


時間という名の流れ概念に逆らって
生きながらえている。



「もちろん、手伝うよ!」
「も、ももだって!」


うちらがそう申し出れば少し泣きそうな顔をした愛理が
こっちへ歩み寄ってきた。



「じゃぁ、ももは補助をするから手を」
「はい」



矢島さんの腹部に手を当て目を閉じる。
ここから、意識を引きずりだすんだけどこれがまた


すっごく、大変。



「愛理、しっかり」
「は、い…」


愛理の背中を支えながら持っていかれないように
声をかけ続ける。

その間も力を注ぎ続ける。


当たり前だけどそんなのひとりで支えきれるはずもなく
すぐに限界はやってくる。

そうならないように、更にうちがももを支えると
千聖まで力を貸してくれる。



「…舞美ちゃん」


小さく、零れおちたつぶやきは
うちらの胸を締め付けた。



それから、数時間が経過していた。



「愛理、代わるから、すこし休まないと」
「大丈夫…まだできます」



愛理はすごく強情だった。


「あいりっ!」
「いわんこっちゃない」



さらに、数時間が過ぎた頃。
意識を持って行かれた愛理が矢島さんの横に追加された。



「…どうしよう」
「…どうしようって、どうも出来ない」



途方にくれ始めてはっとした。
千聖がいなくなっていた。



「ち、千聖!?」
「あ、あれ、あの子どこいった!?」



屋敷の外へ出るとすぐに姿を見つけた。



「千聖!」


「ももちゃん、どうしたの?」
「どうしたのって、急にいなくなるから…もー」



あっけらかんとした態度で玉を転がしていた。



「大丈夫だよ、愛理は記憶渡りうまいから」
「…記憶渡りは今、出来る人いないって」


あれは、数百年前に廃れた術。
今は出来る人はいないと言われる秘術に近いもの


「千聖達は今の人じゃないから」
「…もも、うちすごい所に来たみたいっ!」


そう言い放つと「今頃気づいたの?」なんて言われたけど
いいじゃん、すごいんだから。


ももとはしゃいでいたら千聖が口を挟んできた。




「愛理は3日ぐらいは戻りませんし
そこを超えて意識が戻らないようでしたら…」

「「…」」

「もう、戻れないって教えられました」




思う以上にハイリスクな術なんだ。
横たわる二人を見て、そんなことを思った。





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3日間はここで過ごすことになって早2日。
みやは渡殿でぼんやり座っている。


ここに泊まれると分かりテンションが上がったはいいけど
できることが少なくそれが結果『のほほんライフ』を招いていた。



「千聖はいまもこの場所好き?」
「はい…愛理がいればどこでも好きです」


ふとした会話が耳に入って


「こんな何もなく出られなくても?」
「こんなところでも、千年もいられましたし」


声に影ができる。
みやの心配が表面に顔をだす。


「…もし、戻ってこれなかったら?そういう術だよね?」
「…それならそれでいいんです」


でも、千聖はあっけらかんとしている。
なんでもないように。


むしろ、見ないように。
痛くないように…信じ続けていた。


「いいの?会えなくなるんだよ?」
「…愛理は舞美ちゃんに逢いたくて仕方なかったようだし
あんな術をかけるほど力のコントロールを失うほど込めたんだ」


「どういうこと?」
「愛理のかけた術は本当はもっと軽いものだった
引きずり込まれるほどの術はかけてない」





「み、雅ちゃん!?」
「まぁまぁ、うちの胸かしてあげるから」


千聖のすっとんきょな声で振り返れば
みやが千聖を抱きしめていたところだったし

なにより…「みやに貸すほど胸ないでしょ」




もちろん、聞いていたみやは
もものほうへずいっと近づき




「なにか、言った?も・も・こ・ちゃん!」
「へっ?…いだぁあ!」



ほっぺをつねり上げられて悲鳴を上げる羽目になった。




「ももの顔をつねり上げるなんて…」
「おおげさー」


手鏡で確認しながら暗くなった外を見て
明日で、三日目良くも悪くも明日で帰る事になるわけで



布団に横たわる二人を囲んで
ももたちは翌日に備え策の確認を始めた。






つづく

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