短編 ベリキュー2

□時の灯火 3
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なんども、声がする。
笑い声が、あの頃を連れてくる。





【時の灯火 3】






目の前につけつけられた着物はとても綺麗で
これきっと、高いんじゃないかな…?


だって、所々金箔まであしらえてある



ところで、見たはいいけど
これを…どうしろと?



とりあえず、外に出ようと踵を翻そうとおもったけど
鉛みたいに重くて動かない。



ってか、なんでこんなものがこんな形で保存してあるのだろう
さすがの私だって着物の保存くらいは知っている。


紙に包んでおくのだ。
…たしか。


なんのけなしにかけてある着物を手に取った。
で、なんとなく袖を通してみたら


体は動くようになっていたんだ。




「あ、あれ」




そして、そのまま外へ出た。
なんだったんだろう。



歩いていくと懐かしい風景が目に入る
一応、半年くらいは学校にも通っていたから

当たり前か。



体が覚えていたのか、私は神社へやってきた。
寂れた神社。



でも、すごく見覚えがある。
たしかこの奥になにかあったはず。




わさわさと体をよじりむりやり奥へ入っていく。








その後も獣道をゆっくりと歩いていき
大きな杉の木に出くわした。



「来たか、わらしよ」
「…え」


なんか、すっごい近くで声はするんだけど
あるのは大きな杉の木だけ。


「おい」
「ひゃっ!」


あわてて身を引くけれど。
やっぱり、なんもない。


なんだったんだろう…。



「まぁいい、聞きなさい」
「…え?なに、なんか声する」



その瞬間、腕を掴まれた。



「わっ!」
「まったくうるさいわっぱだ」



そのまま、座らされて
見えた景色はひどく懐かしくて。



「誰かいるの…?」
「黙って聞け」



誰かはいるみたい
それも、人ではないなにか。


私そんな力はないはずだけど…。
やだ、こわいっ…。





「着物をとらせたのはわしだ」
「え、なんで」



目の前に暗い影が出来た。
近くに見える木々はより鬱蒼として見えた。


今すぐに帰りたい。



「あの子が大切にしていた記憶だから」
「きおく?…この着物が?」


声はどこからともなく聞こえてくるけれど
私からすれば大きな独り言にほかならない。



「そうだ」
「…」



誰を指しているのだろう。




「それを持って山を降りなさい」
「嫌」

「もう見えもしないお主が行ったところで意味はない」
「私は私の意志で行くから結構です」




私は声を振り切るように深みへと
歩みを進めた。



行けば行くほど見覚えのある風景が顔を出す。
けれど、懐かしいだけで私はこの場所を知らない。



「やだっ、雨がっ!」



突然振り出した雨に慌てて走ると森を抜けた。
現れたのは剥げちゃっている赤い鳥居。




それにはお札が無数に貼られており
更にはロープまでぐるぐると…。



入ってはいけない雰囲気が漂う。



ザーザーと振る雨は私の頭をぬらしていく。
なぜか、着物は水を通さないらしく体は平気。


つくづく不思議だと思う。







なんか、へんな音がしたと
後ろを振り返ったときだった。



「きゃっ!な、なに…」



少し大きな穴が空中に開いたんだ。
…これって時空がゆがむってやつ?


「…」
「ちょっと、もも!人がいるんだけど!!」


いきなり出てきて後ろにいる小さい子をまくし立てていた。
人…だよね?


見た目は人だ。
見えるし、きっと人間だ。


そういうことにしておこう。



「え〜だって開くとき確かめたよ〜?」
「でも、現にいるじゃん」


ひょいっと穴から出てきた小さい子


「うそだ〜居たとしたら人間じゃないよ」
「あれのどこを見ると人間じゃないの?ねぇ、もも」



着物を纏った明るい髪色の人と
黒髪のちびっこ。


こんなところにいるって事は普通じゃない。
いや、へんな穴から出てきた時点で普通じゃない。



「みてみなよ、あの子の雰囲気おかしいじゃん」
「それは認めるけど、どうみても人間の匂いでしょ!」



それより、あの人たちはなにしにここへ来たんだろう。





匂い?
人間に匂いなんてあるんだ。


って、なじんでる場合じゃないっ!
あの言い方、人間じゃないってことだっ!




逃げようと思ってもいけるのは階段を駆け上がるしかない。
ロープまで丁寧にはってあって


危ない匂いがぷんぷんする。
でも、あの二人に突撃する勇気もない。


…。




私はロープを潜り階段を駆け上がった
けど、すぐさま後悔するはめに


果てがない…。
ありえない、現実的ではない。

でも、終着点が見えない!!




「待って!人間の行っていい場所ではないの!」
「もも!危ないって!」




後ろで声がした。


こんなに、必死に走っているのに
あの小さい子のほうが速いのかあっさりとつかまった。




「はなしてっ!」
「離せないからっ!」


いがみ合って気づく、とんでもない汗をかいていた。
たしかに、真夏だし暑いけど

そんなに…?



「お願い、説明をさせて…」
「…説明?」


あとから、追いかけてきたもう一人もやっと追いつき


「もも!力使いすぎだから」
「はぁはぁ…少し休めば大丈夫」




階段でなぜか説明会が始まった。



「ここはね、1000年残る人間が居る場所」
「…え?」


いやいや、そんな話信じないよ
ってか、1000年ってなに、いくらなんでもでしょ。


「うん、信じなくていいから山を降りて」
「さっき、声にもそう言われたけど私は降りれない」


「…ねぇ、昔からなにか見えるとかない?」
「ない」



なにをいってるの、私は普通に育ってきた。
ここにきてから、おかしなことばかり起きるけど。



「ねぇ、もも」
「な〜に?」

「とりあえず、自己紹介すれば」
「うん、そうだね」




こちらを向きなおして真剣な顔。


ちょっとの好奇心からわけがわからない。
私なにしにきたんだっけ?



「嗣永桃子でぇす」
「…もも」


「えへへ、ももは祓い屋をやってるの」
「うちは夏焼雅…ももと一緒に調整をしてる」


調整?なんだろう調整って


「みや、わかってないみたいだよ」
「ももと同じだけど…うちは8割方、妖怪だから普段は妖怪の世にいる」


「でも、みやは私にも見える…」
「今は人の形を取ってるからね」




それからも、色々と説明をされたけど
私にはわからない事だらけで


思考は放り捨てた。



「ってわけだから、山降りようね?」
「もも…残念、たった今逃げられたよ」

「えっ!?」


すきをついて私は全力で走った。
人間が居るというその場所を目指して走り続けたんだ。



遠くで声がする。
けど、私はいかなきゃいけない気がしたんだ


あの子が…ずっと待ってると








――あの子って…だれ?






瞬間、頭上からにゃ〜って聞こえてきた。
降ってきたのは猫だ。



「へっ!?ちょっ!」


少しずれて落ちてきた猫に合わせるように
私の体は宙を舞った。










































まぶしくて、うっすらと意識が戻ってくると
近くに人が居るのが確認できた。



「…戻ってきてしまったのね」
「本当によかったの?入れて」


「ええ…あのまま走らすわけにはいかなかったもの」
「そうだけど、この子はあなたのこと覚えていませんよ」



会話に耳をかしていると
頭を叩かれた。



「ちょっと、千聖」
「こいつ、また起きてましたよ」



頭をさすりながら起き上がる。
そこには、誰もいなかった。



あたりを見回してみるけれど
かすかにする声以外にはなにもない。


大きなお屋敷があるだけ。




「…大きなお屋敷」



こんなでかいお屋敷どうやって隠れてたんだろう。
でも、見覚えはある。


目が覚めた時していた声も聞こえなくなってきたし
少し探索してみよう



階段を離れようと一歩踏み出したときだった。



「待てって言ってるでしょ!」
「はぁはぁ…」



急な大声に心底驚いて振り向けば
さっきの二人組。


「ほっておいてください」



私の言葉もなんのその。



「そうもいかないのよね」
「はぁっ…もう疲れたー」




そういいながら、着物を翻らせる。
手に持つ札を構えてぶりっこ。



「人の子こっちきなって、危ないよ」
「なんで、なんでそんな荒らそうとするの?」



困った顔をしながら顔を見合わせた。
私の言葉はそんなに困るようなもの?



「依頼だから…かな」
「良くも悪くもパワースポットだからだよね」


「別にあなたのお友達を消そうとしてるわけじゃないし」
「そうそう、移動してもらいたいだけ」



やっぱり、困ったような顔で私に問いかける。
友達と言ったけど、誰も居ない。






「友達なんかいないよ」
「そこの子お友達じゃないの?」




嗣永さんは何もない空間をさす。




「…あの…嗣永さん?」
「…もしかして見えてない?」


「…なにかいるんですか?」
「うん、小さい子と高校生くらいの子が」



嗣永さんの視線の先を追う。
やはり、何もない。


友達って言ってたけどそんな小さい子と
友達になる機会なんかなかった。






ーーーーーーーーーーーーー




背の高い彼女はまったく見当つかないという様子。
力のない人がいるところで行える術ではないし

彼女をどうにかしなきゃももたちは帰れない…。



「みや、どうする?」
「うーん…対象に相談してみたら?」



みやは半分なげやりにももへ放ってきた。




「ももたちはよく思われてないでしょ、協力してくれるはず
ないでしょ!?」
「でも、それ以外になくない?」



そういって、対象へ向きなおしたみやにため息。



「あの「立ち話もなんですからどうぞ」


そう、招かれる。
わかっていたかのようにささっと屋敷へ向かっていった。


隣にいた高校生くらいの子は怒りながら追いかけてったけど。




「だって、行こう」
「そうだね、ほら矢島さんも」


困ったような顔をしていた彼女も引き連れて
もも達はお屋敷へとお邪魔することになった。



つづく

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