短編 ベリキュー2

□時の灯火 2
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この時期は日暮れが早い。
頑張って走ってもお日様には勝てっこない。





−−−−−−−−−−−−−−





ゆっくりドアを開ければ


角でもはやしたような顔で仁王立ちする姉が
待ち構えていた。



「日暮れまでには帰ってきなさいって言ってるでしょ!」
「…ごめんなさい」



少し叱られたけど、あんなに綺麗な夕日を見れたし。
べつにいい。



お風呂から上がるとすっごく寒い。



「うわぁ…寒い」
「そんな格好でうろついてれば寒いでしょうよ」

「あ!いいなー私にもちょうだい」
「はいはい。ほら、口あけて」



声の主へ振り返れば
おいしそうなアイスを片手に呆れ顔。



キンキンに冷えたアイスを一口もらって
ヒーターの前に居座る。



「明日は雪が降るから暖かくして寝るのよ」
「はーい」



雪か、あのお屋敷じゃきっと寒いだろうな。
お休みになったら朝から行ってみよう。



布団にもぐりこんで沢山の雪が降り積もるように祈った。










@@@@@@@@@@@@@@@@@




…寒い。
布団をかぶってるのに


信じられないくらい寒いっ。


頭を布団からだして
ちらっと室内を見回す。





「…まだ、暗いじゃん」




のそのそと布団から出て窓へ向かう。




「うぅ…さむ〜い」



カーテンを開けるとそこは一面闇み包まれていた。
だよね、まだ、陽さえ昇っていない。


「ふぁ〜」


戻ろうと踵を翻した瞬間だった。
窓のふちにたまった雪が目に入ったんだ。



「え…うそっ!」



窓をバンッと開くと冷たい風が吹きすさぶけど
確かに、景色は一面の銀世界だった。


よしっ、これなら今日はお休みだ。



ノートを一ページ破り
ペンを走らせた。



「うーん、これでいっか」


ぱぱっと服を着替えて上着を羽織って
メモはリビングの机に置いてきた。



玄関の時計は4時を教えている。
まだ、早い。



けど、私は扉を開けた。






想像以上に深い雪に何度か足を取られながら
走り続けた。



「はぁはあ…はっ」



あの鳥居の所まで来て陽が昇り始めていると
気づく。


空を見上げて、まだ降り続ける雪は冷たくて
寒くて、でも綺麗で。



私はあの階段を駆け上っていった。




「うわっ!あ、あぶなっ…っ!」



階段が一箇所凍っていたらしく
つるっと滑った。


そのまま、私は滑り落ちていく。


しんしんと降り続ける雪の空と
あの時の猫が目に入った。





まだ、ぼんやりする頭だけど
目は覚めてきていた。



「ありがとう、千聖」



私の隣で猫をほめて撫でてあげている愛理。
…私やっぱり、頭の打ち所悪かったのかも…。

猫のしっぽが二本見える。



「さて、どうしようか」
「にゃー…っと」


そして、くるんと一回転した猫は
人間の姿になった。

うん、私疲れてるんだきっと
寒くて、寝不足だったんだ。


そうだ、うん。
おやすみなさ〜い



もう一度、寝ようとすれば
あの猫人間に頭を叩かれて飛び起きる羽目になった。



「ちょっと、千聖」
「だって、この子起きてたし…それにまた寝ようとしてたし」



どうやら、心まで読めるよう。
こいつは気をつけなきゃ。


「舞美ちゃん大丈夫?痛いとこない?」
「う、うん…大丈夫」


私をみて、安心したのか
すぐに、猫人間…改め千聖のほうを向き


「千聖ってば乱暴なんだから」
「まぁまぁ、ほら、雪がすごいし戻ろう?」



そういって、いくつくらいだろう?
私や愛理よりかは年王であろう千聖に手を引かれて

お屋敷へと急いだ。


木造の階段を上り終えるところで
はっと気づく。



「愛理、着物脱がないと床が濡れちゃうよ」
「大丈夫だよ〜それなら、舞美ちゃんのほうがまずい」

「あ、着物なら千聖が!」




言い切る前にばたばたと奥の間へ行ってしまった。




「まったく、貴族とは思えないよね」
「…貴族?」



私の一言はそんなに気を悪くしたのかな。
千聖は私をにらみつけ


挙句、鼻で笑ったんだ。



「まぁ、お子様にはわからないか」
「お子様なんかじゃないもん!」



つい、むきになって言い返してしまった。
これじゃ、本当にお子様じゃん



「住む世界が違うってことに気づけないお子様でしょ?」
「おんなじだよ、だって、いま一緒にいるじゃん」


「わぁ〜そうきた?面白いわらしだこと」
「わらし?」

「子供って事さ」
「なっ!」




このねことの出会いはそれはもう
最悪の一言につきた。



でも、子供ってきっとうまくやれる生き物なんだろう
一月もたたないうちに打ち解け遊ぶようになっていたんだ。






愛理に出会ってから半年が過ぎた。



































初夏の音。
それは、別れの音色。



沢山の思い出を愛理や千聖と紡いだ。
愛理と遊べることが毎日の楽しみだったんだ。








「なんで!やだっ絶対引っ越さない!」
「わがままを言うんじゃないの、お母さんたちと住むのは決まったことなの」




おばあちゃんちに姉と二人で預けられて
いつかは来るだろうと思っていた


思っていたから、あきらめたくなかったんだ。
この地を離れたらもう愛理には会えない気がした。

だから、私は意地でも残るって決めてたんだ。



「でも…っ!」
「最初は来るの嫌がってたくせにね」



なでられたことに顔を上げれば
何かが顔を伝って落ちていった。



「泣かないの、ほらアイス食べる?」
「…いらない」



そのまま、逃げるように部屋へもどった。
おばあちゃんは苦笑いしていたけど

お友達と離れたくないのは
万国共通だもんっ。



翌日、私は学校へいくふりをして
あの神社へ向かった。






「舞美ちゃん、どうしたの?」
「…愛理ぃ」



階段すらも全力で飛ばしてのぼった
私の呼吸はすごく荒れた。



「今日はがっこう、なんじゃないの?」
「いいの、気にしなくて」



驚いた顔をしていた愛理。
たしかに、こんな時間に会えるのは休日だけだしね。


いつもと、おなじ綺麗なお着物。





いつもと同じ。




はずだった。
でも、私たちの時間は終わりを告げようとしていたんだ。




「なにか、あったんでしょ」
「うんん、愛理に会いたかっただけだよ」



来たはいいけど、どうしていいかもわからない。
私が出来たのはいつもとかわらず遊ぶことだった。








「ちょっと、ちっさーどこ蹴ってんの!」
「そんなのも取れない舞美ちゃんがいけないんだっ」


けまりや


「ま、まて!そんなに登ったらあぶないだろっ」
「大丈夫だよ、しっかり掴めば落ちないから」


木登り



「意外と強いね」
「意外とってなんだ」



横で笑いながら愛理が口を挟む



「私のお相手ですからね」
「そっか、愛理の相手が出来るんだから強いはずだね」


「もうっ!二人ともうるさい!」



碁を打ち。




気がつけば、もう日が暮れはじめていた。
夏の夕暮れは私を待つように


ゆっくりと、でも確実に夜を連れてくる。





「やっぱり、なにかあったのでしょ?」
「…」



広い部屋で愛理と向かい合い
言葉は発せない。


何をいえばいいかわからない。




「めんどくさ、読んじゃえばいいじゃん」
「こら、わたしは極力そんなことはしません」



ちっさーと愛理は姉妹のようで
もちろんちっさーが弟?妹のように見える

不思議。



「舞美ちゃん?」
「…ごめん」


声をかけられてはっとする


言わなきゃいけない。
いつかは言わなきゃいけないんだ。



「なにが…?」
「もう、来れないんだ」



「え?」
「引っ越さないといけなくて」



そういうと愛理は少し笑って
奥の間へ行ってしまった。



「ちっさーもごめんね」
「なにがだよ」

「中途半端で」
「べっつにー」


顔を背けられたけど
いやなそむけ方じゃないからよかったと

心から思う。



戻ってきた愛理はやっぱり笑っていたけど
おもむろに上着を脱ぎだした。



「あ、愛理っ!?」
「え?ちっさー?」



妙に驚くちっさーに私まで驚いてなんてしていたら
ふわっと上着をかけられた。



「私からの餞別です」
「せんべ、つ?」


声からしぐさまですべてがふわってしていたんだ。
そのままやっぱりふわって抱きしめられた。









@@@@@@@@@@@@@@@@@@@






忘れたほうがいいことも世の中あるものです。
今の現状もそのひとつでしょう。



「よかったの?大切な記憶を押し込めて」
「いいの、いつかは忘れてしまうのだから」



着物を羽織らせてそのまま記憶を封じ込め
今は私のひざの上で眠っている。


「まぁ、そっか」
「1000年も昔の存在がここにあること自体間違いですからね」

「それもそっか」
「大人には見えない存在っていやね」




「千聖は今の生活気に入っているけどねー」なんて強がって
いたけれど本心はきっとそうは思っていないだろう。

あれだけ、昔生まれ変わりたいと泣いた事、私は
忘れられない。




「なにやってんだよ、早く術かけて返せよ」
「うん…わかってる」



無事に帰れるように。
こんなものに縛られぬように


私は術をかけたんだ。



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