短編 ベリキュー2

□時の灯火
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沢山の思い出をくれたのはあなただった。
でも、沢山の気持ちを奪ったのもあなたでした。






【時の灯火】





がたがたと揺れる。
私は今、久しぶりに田舎へ帰ってきた。



あれは、ちょうど8年前。
まだ、私が小学生の頃。







この町へやってきた。








畑に田んぼ。
大きな木や小さな学校。



そして、あの子がいたんだ。










−−−−−−−−−−−−−−−−−−












少しやんちゃな年頃で冒険をすると静止も聞かず雨雲が広がる中
外へ出た。








「えり(姉)も大げさだよね、雨なんか濡れて帰れば気持ちいいのに」





少し歩くと小さな森が見える。
そこには社があって


昔からの言い伝えがあると聞いたことがある。


忘れちゃったけど。




「わぁ…すごい」



森の中を探索していくと獣道を見つけ
そこをいく。


途中で大きな大木と出会って
見上げると何かが動いた。



「…なんだろ…まぁ、いっか」



もう少し行くと小さな鳥居。
赤いけれど随分昔のものなのか所々はげちゃってる。


そして、鳥居にはたくさん御札が貼ってあって
その上からはロープが張り巡らされていた。





「…」ごくっ




そこを潜って階段へ向かう。



階段をたくさん蹴って飛んでいく
先が見えたその瞬間、猫ちゃんが空から降ってきたんだ。



「えっ!?うわぁ!」



抱きかかえた瞬間、視界がぐるりと一回転した。






































「ぁ…ぇぃ…り」


声がした。
どこからだろう。


強くつぶった目をゆっくり開くと
見たことのない大きな敷地とお屋敷。



「大丈夫ですか?歩ける?」
「…え、だれ」



目の前に突然現れたのは着物?浴衣?
を身に纏った女の子。


今時、変わった格好。



「歩ける…」



立ち上がって女の子の顔をみると
年は近そうだった。


「よく、入ってこれたね」
「え?入ってこれ…きゃっ!」



曖昧だった空模様は私がしゃべりだすと
途端に崩れだし、ゴロゴロと雷を落とした。



「だ、大丈夫?」
「腰が抜けちゃった…」


女の子を見上げると少し困ったような顔
後ろには雷がピカピカと光る。



「雨降りそうだから、つかまって、濡れちゃう」
「あ、ありがとっ」



そのまま少女につれられてお屋敷の中へ入った。
見た目通りの華やかさ



「濡れなくてもボロボロね」
「ごめんね、きれいなお屋敷なのに」



言い切る前に奥の間に行ってしまって私は
一人にされた。


大きくてきれいなお屋敷
こんなに立派なのどうやって隠れてたんだろう。



「とりあえず、これを」
「あ、ありがと」



あちらこちらがやぶけて穴があいた服を脱ぎ捨てて
渡された衣を纏う。

けど…これ…浴衣じゃない。



着物だったんだ。



何枚もあるし分厚い…帯の結びこれでいいよね。
わかんないし。



「着れた?え、え??」
「あ…うぅ…」


私の(やっぱり)変だった帯の結びや
がたがたに崩れた姿をみて


やわらかく笑ったんだ。



「気づかなくてごめんなさい」
「い、いや…着れなくてごめん…」

「舞美ちゃん…こっちむいて、着付けるから」
「うん」



するすると解かれる帯
ガタガタだった着方も綺麗にピンと着せてもらった。



あれ…私この子に名前おしえたっけ?



「ありがとう、あの」
「愛理、私の名は愛理です」



聞く前に名乗られてしまった。



「愛理?」
「そう、せっかく来たんだから遊びましょう?」



ふにゃとした笑顔で迎えてくれる。



「うん!あそぼっ!」



雨が降り続ける中、愛理が持ってきてくれたのは
基盤と碁石。



「このようなものしかありませんでした」
「愛理は碁打てるの?」

「たしなむ程度には」


やっぱり、あのふにゃってした笑顔。
ぜんぜんわからないと言うと


うれしそうにルールを指南してくれたっけ。








@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@







パチ、パチと石を置く音がする。



「うーん」
「どう?」


「だめだ、私のまけー」
「ふふっ、勝っちゃった」




うれしそうに碁石を集めてしまってるだけなんだけど
そんな動作がすごく女の子らしくて

着物の効果なのかな。



でも、やっぱり私はこんなのは飽きてくる。
外で元気に走り回りたい!



「外、晴れてきたね」
「へっ?あ、ほんとだ」


愛理の声に誘われて外へ出て行けば
きらきら光る葉っぱや、ざわざわ揺れる木々に目を奪われる。



「…きれい」
「舞美ちゃんは自然がすきなんだね」


声のしたほうへ振り向けば
ふわふわとやっぱり笑うだけだった。







幾日か過ぎた頃、愛理はいつもと違う衣を纏っていた。







「おはよー」
「おはよう、早いのね」

「うん!それより今日着てる服変わってるね」
「今日は裏山に行くって言ってたから、外着かな」




そういって、鳥居の近くまで走る。



「あっ、舞美ちゃっ!」
「へっ?…あ、あいり?」



強く腕を引かれ鳥居を潜ることは叶わなかった。



「どうしたの?」
「裏山はこっちじゃないの…その…あっちから」


なんだか、妙にビクビクしてる。


「そっか!じゃーいこー」
「うん」



少し勾配のきつい坂を上るとそこは
広場となって現れた。



「わぁ〜木が大きい!」
「そうね、大きい」



すらすらと木を登る
なんだろう、すっごく登りやすい。



「待ってよぉ〜きゃっ!」
「大丈夫?ほら、つかまって」


手を貸して二人でなんとかのぼりおえれば
想像以上の高さ、でも怖くなんてない。

それどころか、夕日が綺麗に写る海に目を奪われたんだ。



「こんなとこ、あったんだ」
「海が一望できるなんて最高だねっ」



夕日…?


「やばっ!帰らなきゃ!」
「早く降りなきゃね」



はっと気がつくと私たちは木の下にいた。
…いつ、降りた?



「あ、あれ?」
「ほら、早く帰らないとだめなのでしょ?」


「うん」


大して気にせず私は走り出した。



「また、明日ね!」

ふと、言い忘れた一言を振り返って言えば
うれしそうに言い返してくれたんだ。


「また、明日」って。







つづく

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