ハロー王国    完結

□5話
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まっすぐに見据えるあなたの横に
私は、いつまでも立っていたいだけだったんだ。




【ある国の戦争】




城を出て私たちはお団子やさんを目指した。
大きな事は決まったかもしれないけれど


皆、なにひとつ変わらなくて。
私はまだ…何にも分かってない。


実感すらもないかもしれない。




「舞美ちゃーん!」
「おかえりー!」



佐紀ちゃんと座っていた舞美ちゃんは
私を見るなりすっ飛んできてくれて


……!?。



「った!」
「いたたぁ」



見事に二人して転げてしまった。



「まったくっ…なにやってんの」
「ほんとだよねー」



苦笑いしてる佐紀ちゃんに
呆れてるみやともも。



「ほら」



手を差し出してくれたなっきぃを二人で見つめて。
少しだけ舞美ちゃんと目が合ったんだ。




―飛びつこう、なっきぃに!





そう、一瞬聞こえた気がしたの。




「えっ…!ちょっ!二人ともっ!おもいぃ!」




私の聞いた声は間違っていなかったみたい。
どさって音と共に3人で倒れこんだけど


皆、笑ってた。





すごく、楽しそうに。




























少しして佐紀ちゃんからおみやげのお団子をもらって
やっと、国の敷地内に入ってこれた。



「あいり〜」
「な〜に?」



ささっと、手を繋がれて
手をぶんぶんされる。



「なんで、さっき飛びつくってわかったの?」
「あ、それはね」



口を開いた瞬間
待ってましたとばかりに千聖と舞ちゃんが走ってきた。




「おかえりー!」
「おそかったねー!」



もちろん、飛び掛られた舞美ちゃんは千聖の下敷きになってる。



「いたた、ただいま〜」



にこーって目がなくなっちゃうくらいの
笑顔で二人の頭を撫でてあげている。




「もう、書類回ってきてるよ」
「え?早いね」



はやく、はやくと舞美ちゃんを引っ張って
走り出す千聖に慌てて走り出す舞美ちゃん。



あきれたようなため息をつく舞ちゃんとなっきぃに
私はついていった。





「高橋さんが言ってたやつ…明日までだからね」
「…うん」



机の上にある紙を眺める。



「なっきぃはどうする?」
「なにが?」




なんだか落ち着かなくてペンシルをくるくると回す。




「参加の有無」
「私は丸を書いた」


「そっか…」
「…愛理はよく考えて書くんだよ」



なっきぃは私を見据えて
私に考えろといった。



「うん」




国として生きて
調査などは行っても死とは遠い場所にいた。





人よりは強い。
簡単には死なない。


だけれど…銃で撃たれれば痛いし
動くのもつらい。







―――死なないのではなく…死ねないんだ。






私は紙に丸を書かずに提出した。










舞美ちゃんやなっきぃは笑って
頭をぽんぽんってしてきたけど


千聖は…顔を合わすだけでも掴みかかられる。




「やめなよ、見苦しいよ千聖」
「うるさい!愛理、お前は自分で決めたんだ!戦争をするって」



少し首がしまって苦しくて。



「ち、千聖!愛理の首が絞まってる!」
「おまえが決めたことによって…うわべだけの平和でも
それすらも崩れるんだ!なのに、逃げるってどういうことだよ!!」






でも…本当は。





「千聖!」
「…口をはさむな!」



「逃げるわけじゃない…」
「あぁ!?」



思ったことを言えばまた、少し首が絞まる。




「私は逃げたわけじゃない!」
「じゃぁ、なんだってんだ!」




胸倉を掴む手をはずして
更にヒートアップする言い合いに舞美ちゃんまで来て。




「命を舞美ちゃんに預けるってのは覚悟したって事じゃないのかよ!?」
「そうだよ!だけど、私が命を預けたのは舞美ちゃんであって連合にじゃないもん!」


「そんなのいいわけだろ!」
「ちがうっ!それに、死ねばいいってもんでも…ないでしょ」



「…」
「…死んだらなにも守れない」




さっき、千聖をおさえようとしてくれていた
舞ちゃんは舞美ちゃんにしがみついてるし


なっきぃも気まずそう。




なんだか、私まで気まずくなってきた。





「また、逃げんのかよ!」
「…」




ノブに手をかけると千聖がけんかを売ってくるけど





「愛理っ!」



私は扉を開けて…逃げた。





砂浜にある岩に腰掛けると
波の音がいやに大きく聞こえた。


力のあるものがなんで安全圏にいるのか。
千聖が言いたいことはわかるけど



無鉄砲や向こうみずなのはやはりいいことだとは
私には思えなくて。




「あれ?愛理」
「どーしたの?」



はっと、気づけば前にはももとみやがいて。



「あ…」


「浮かない顔してどうした?」
「珍しいね、一人?」



声を出そうとした瞬間だった。
微かに舞美ちゃんの声がしたんだ。


「舞美ちゃん…!」
「舞美?」


不思議そうな声を出して
周りをきょろきょろするみやと少し考え込んでいる様子のもも。


「あいりっ!」
「うわっ!びっくりした…」



ももの真後ろから出てきた舞美ちゃんに驚くももに
苦笑いしてるみや。



「舞美ちゃん」
「愛理」


かえろっか?って手を差し出されて
私は舞美ちゃんに抱きついた。


「甘えん坊だなぁ愛理は」
「そんなんじゃないもん」


少し皆で話して。
解散になった。



帰り道、舞美ちゃんが手をつないでくれて。
3色に分かれる空の下を歩いたんだ





数日後、モーニングから開戦通告が回ってきた。
作戦は意見を出し合い決まっていたけれど

いざ、書類に目を通すと
本当に出来るのか不安になる。



「集落の占拠だれがやろうか」
「私行くよ」



真っ先に手を上げた舞美ちゃん。
あんなに、人を殺す事を嫌がっていたのに変われば変わるものだと

思う。



「いや、リーダーは駄目」
「えーなんで」



あっさりと駄目になったリーダー。


「リーダーは大戦に先頭に立ってもらうから小戦は出れない」
「うー…どうしても?」


「どうしても」
「わかった…」


なっきぃにばっさりきられて
しょんぼりしてる舞美ちゃんも可愛いかも。


「じゃぁ、千聖が行く」
「え?大丈夫?」


「大丈夫に決まってるじゃん!それとお願いがある」
「ん?」


「占拠する時、愛理も同行させてほしい。終わり次第返すから」
「え?なんで?」


「駄目ならいい」
「いや、駄目じゃないけど」



そういって、こっちを見る。
いや、私断れないのにっ…!



「い…いく」
「よしっ、そうこなくっちゃ」


「本当に大丈夫?」
「しつこい!」



一週間かけて、やっと集落の近所まで来た。
牧場の馬を拝借して少し動きやすくなったし。


もうすぐ、戦が始まる。






私達の歴史が大きく動く瞬間が始まるんだ。








先頭に立った千聖が剣を掲げる。
それを合図に国のものが千聖を先頭に走っていく。




「続けー!!」


森を抜け、城下町を抜けていく。



「ぐはっ!」
「うわぁあ!!」


剣を振るいながら突き進む。


簡単には死ねない国の人たちは
もがき苦しむ。


それでも、私達は前へ進まなきゃいけないんだ。



「ここは℃国が占領した!抵抗したものは容赦なく殺せー!」
「了解であります!!」


命令を下すのを横目に私は周りを見渡した。
城の中に突入していたから、あちらこちらから悲鳴が響き渡る。



「きゃぁああ!いやあぁああ!!」
「うるせぇ!だまれ!」


そう言って同じ女性を男が乱暴に扱う。



目を背けたくなる…。



「愛理、こいつがここの主だ」
「…」


馬から下りて国王を捕らえている千聖。
足元には10歳くらいの少年が血の海を作っていた。



あちらこちらからの悲鳴。



「愛理!意識をしっかり持て…そんなんじゃ殺される!!」
「あ、う、うん…」



今すぐにでも耳をふさぎたい。



「こいつは愛理が殺せ」
「な、なんで!?私…っ!」


言葉に詰まる。



「愛理、これは戦争なんだ。これが戦争だよ?選択した
だから、殺さなきゃいけない」
「でも…わたしっ…」



いとも簡単に死ぬ人間と


どんなに、苦しんでもなかなか死ねない私達の国民と。
大差なんかない…同じような容姿で。



「愛理、覚悟…決めたんだろ?だったら殺せよ。そんなに弱くちゃ
なにも守れない」
「…わかった」


手が震える。
腰に携えられている剣を抜くとかちゃりと冷たい音がした。


よく、見ると千聖が足止めに銃で一度撃っているようだった。
あとは、トドメを待つ形だったんだ。



苦しみながらもおびえを見せる人間に
ためらっちゃいけない。


躊躇ったら、私がヤられる。





私は剣を思い切り振り下ろした。





「お見事」
「うっ…」


「ほら、いくぞ」
「ま、まって…気持ち悪いぃ」



うずくまって顔をひざで隠すと背中をぽんぽんされて。
冷たいはずのその手がなんだかとっても暖かかった。



「もう、動ける?」
「大丈夫」


千聖に倣い馬にまたがる。
まだ、体が震えていて。


悲鳴だって怒声だってやっぱりまだ
不愉快で。


外へ出る時に見かけた男が女に勝つ瞬間。
しばらくは夢に出るかも…。




「べりーずがそろそろ連絡弾打つはずなんだけど…」


空をみてそう呟く千聖。


「遅いね」
「手こずってるのかな」


「ねぇ、千聖」
「ん?」



ずっと気になっていたことを一つ
問いかけてみたくなった。



「なんで、今回私も同行させたの?」
「あぁ…それはさ」


ふいに向いた顔がすごく険しくて。


「大戦の前に実感してほしかったから」
「実感?」


「そっ、死ねればいいんだけど千聖達は死ねないでしょ?
国民ですらも人よりは遥かに強靭だから国の擬人である千聖たちはもっと死ねない」
「うん」


そんな、当たり前なことなんで今更。
そう思った、だけど、私は何も分かっていなかったのだと知った。



「だから、つかまったらどうする?」
「え?」

「さっきの人間みたいに無理やり体を開かさせられたら?」
「…」


「うんん、それだけじゃない。毎日処刑されるのは?でも死ねない」
「…千聖?」



苦しみ、痛みだけがずっと繰り返し与えられ続ける。
それは、地獄以外のなにものでもない。



「一年殺され続けてはじめて死ねる…それも最後の一人になったら
国が滅ぶまでは消えることも許されない」



すぐに浮かぶ悲惨な想像。
それが現実化したら…?


考えたくもない。



「千聖は愛理が一番あぶなかしいと思った、強いくせに情にもろいから
そんなんだから、ちょっとした行動で地獄を見る事になる」
「…ごめん」


「…謝ってくれなんて言ってないし」
「うん、ありがと、千聖」



そう、いうと少し照れたような顔でそっぽ向かれた。


「いくら、国である千聖たちだって油断をすれば人の手に渡る
もうすぐ、大戦だから大きな人の里を攻める時に情なんかで愛理を失いたくない」



そう、そっぽを向いていた千聖がかちゃりと銃を向けてきた。



「千…聖?」
「恥ずかしすぎる、言ったこと忘れろ」



真っ赤な顔でそう銃を向ける千聖に思わず笑みがこぼれる。




「わ、笑うなっ!」
「だってっ」


そんなやり取りをしていたら空に赤い弾煙が見えた。


「あ」
「あ、やっと来た」



馬を少し前を出す千聖。



「ここを拠点とし3日後に控えた大戦に備えるため各自持ち場につけー!!」



そう、千聖が叫ぶとあちらこちらから声が上がる。



「とりあえず、任務完了かな」
「うん」



そういったもののまだ、なにか悩んでいる様子の千聖。



「どうかした?」
「いや、なんでもない…それより、愛理。一度、城に戻って当日ここへ
メンバーを連れて飛んできて」

「でも、それは明日の予定じゃ…」
「少し、城で休んでからこいって事、今回の作戦も千聖が無理言って
愛理つれてきちゃったし」



でも、それは…千聖の好意だったくせに。



「なんで?明日帰るよ」
「…っ!駄目!とりあえず、休めって!」



不器用な生き方しか出来ないってこういうのを言うんだって
知ったのはもう、取り返しがつかない時だった。



「わかった…気をつけてよ?また2日後に」
「おう、また2日後に」




そうして、占領した新しい陣地に千聖を置いて
私は国まで飛んだ。





つづく

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