BOOK-V

□Wake-up!!!
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-KEY-





いやぁ
うん

綺麗になったよね、本当





綺麗

男に対して使う台詞にしては
少々女々しい感じがするのは否めないけれど
今の彼を言葉にするなら
この台詞が最もしっくりくる



格好良いっていうのとも違うし
男らしい訳でもない

まぁ
美しいといえなくはない






やはり“綺麗”なのだ





ほんの少し
いいようのない色気を含んで



気がついたら
彼はそうなっていた











額に汗が浮かんでは
輪郭に沿って滑り落ちる



黒々囲われた瞳
余計な肉が削がれた頬
きゅっと結ばれた唇



汗は
それらを順にたどって行って
名残惜しそうにシャツの襟元辺りに染み付く





どうしたもんかな

そんなつまらない様子を
飽きもせず10分くらい眺める



それは次々と吹き出して
どれもこれも同じ道順をたどって滴り落ちていくから

目で追おうとすると
必然的に視線は
その綺麗に並べられたパーツにも容赦なく注がれる





というよりむしろ
それが見たいんだけど





「やー、キム・キボム」


「んー」


「僕の顔に何か異変でも?」


「うん
汗垂らしすぎ」


「それは……
やばいね」





手にしていた携帯端末をメイク台に投げ出して
ティッシュを顔に押し当てる

それはすぐに水分を吸って
使い物にならなくなる





あーあ
せっかくいい眺めだったのに

言わなきゃ良かった





妙な苛立たしさが
ちりっと胸の内に焼き付く





うつむいて
ひたすら顔を擦るせいで
綺麗な顔は金色に揺れる前髪に隠れて
見えないし



どうせ見えないのなら
いいよね



八つ当たり気味に
鏡越しの彼を睨みつけてやろうと
あからさまな不機嫌を称えた瞳を上げる





「え、」




なに

伏せられていたはずの瞼はしっかり開かれて

黒く縁取られた2つの漆黒は
僕の企みなど一瞬で封じ込めてしまった







彼はもう
彼ではないのだと

何故だかふと
理解した
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