BOOK-V

□a poisonous substance.
1ページ/6ページ

-ONEW-





ひんやりと冷たい空気が
素肌を撫でる



皮膚が直接触れるシーツは冷えていて

足の裏を擦り付けると
気持ちが良い





でも
ちょっと





「寒い……かも」





もう起きてしまおうと目を開けば

頭が痛くなりそうな
キツいピンクの壁紙が飛び込んでくる





寝起きの目には
毒だ





長い間
黒しか認識していなかった僕の眼球は

いきなり
毒々しいこの色を認識しなくてはならないなんて





可哀想な
僕の眼球





ぐちゃぐちゃに皺の寄ったシーツを手繰り寄せ
まっさらな身体に巻き付ける



ベッドの上

体育座りをして
そのまま鼻歌を歌う





歌う曲は



ジャンルも
歌手も



なんだっていい



適当に
思い付いた曲を歌う





暇を持て余した指で
いまだ眠る女の長い髪を障る



少し掴んで
指に巻き付け

つぅっと爪で引っ張ってみる



指を抜くと
髪はくるくるとパーマをあてたように巻かれていって
面白い







気分が乗ってくる



口から流れ出る曲も
パンクロックの激しい曲に変わる





んー

こんな曲
どこで聴いたんだろう





分からない

ま、いっか










自分の髪に手をのばし
1本引き抜く


女のとは違って
金色のそれ





もう
何回染色したか覚えていないけれど
不思議とあまり
傷んでいない





母か
父か

それとも先祖か





この遺伝子を
僕に組み込んでくれた人に感謝だ





仕事上


本来の自分とは違う
相手の望む“人”になるために

外見を変えるのは
重要だ





僕にとって
それは儀式





“イ・ジンギ”
から
“ONEW”へ





相手が

求めて
欲して
思い描く





“ONEW”になる





今回
こんな派手な金髪にしたのも



それを相手が求めたから

そういう“ONEW”が欲しいというからだ










「あ、」





そうだった

すっかり忘れていた





「10時に○○
10時に○○…っと」





眠る女を押し退け


さっさと
下着から服まで
元通りに着込んで





迫るピンクから逃れるように
部屋を出る





あー
キモチワル
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ