BOOK-U

□どうしようもなく。
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-SungKyu-





「ねぇ、ウヒョナ」





がしゃり、と
鉄の擦れる音が部屋中に響く

硬いもの同士が反発しあって相容れないその音は
まるで今の自分達のようで
ソンギュは苛々した



この感情は
この愛は

ウヒョンに受け入れてもらわなければ
意味が無いというのに



ウヒョンはいまだ
否定し続けている





「ねぇ、ウヒョナ
俺だって知ってるんだよ
これでも一応大人だから

この世には
どうしようもないことなんて
山程あって
それは本当にどうしようもなくて

それこそ定められた運命みたいなものだって」





虚ろに揺れる切れ長の瞳には
もはや何者も映っておらず

よれたスウェットの袖口から覗く腕からは
出会ったころの逞しさは消え失せ
少し力を加えれば簡単にぽきりと折れてしまいそうなほど
痩せ細っている



がっと
無造作にのびた髪を掴んで
無理矢理自分の方を向かせる

ウヒョンの瞳は
相変わらずふらふらと焦点が合わないけれど
ソンギュはそれでも良かった

そんな状態のウヒョンでさえ
いとおしかった





「でもね
分かってたってどうしようもないことも山程あって

逃れられないんだ

だってどうしようもないんだから」





がしゃり、

再び無機質な音が鳴り
ウヒョンの右腕が持ち上がる様子が
ソンギュの目の端にちらりと映る



その右腕は
ソンギュの左頬を撫でると
力無く床に落ちた





「お前が、泣くなよ」





掠れてしまった
懐かしいウヒョンの声を聞く

なんとも弱々しく
消え入りそうな声は
ソンギュの身体を震わせた



いつの間にか
ソンギュの両目からは次々と大粒の滴が溢れ出して
シャツの襟元を濡らしていた





「泣きたいのは俺だろ

ずるいんだよ
そうやって泣けば
なんとかなると思って

……本当に、卑怯だよ」





ごめんなさい

ソンギュは声には出さず
というより出せず
自分の心の内で謝る



本当にごめんなさい

こんなことでしか
君に愛を伝えることが出来ず
そのくせ
そうやって君を縛り付けていることが本当は嫌なんて

随分と自分勝手な矛盾だ





ソンギュは
その愛の形が酷く歪んでいると
分かっていた

分かっているからこそ
苦しいのだ



普通に
2人で笑い合って
お互いの愛を確かめ合って

そういう一般的な愛の形では
ソンギュの不安が彼の精神を内側から食い尽くして
結局こういう結末を迎える



相手がいくら自分を想ってくれていると理解していても
それは変わらずソンギュを襲った



きっと
ソンギュはそういう“性質”なのだった



例えば
小麦アレルギーによってパンが食べられない、みたいな

そういう
自力ではどうしようもなく抗えない
しかしごく自然に存在する性質





それでも、





「それでもね
これが、俺の愛の形なんだよ」
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