小説

□捥がれた翼
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 訓練どころではない、それもそうだまさか空から黒い羽の生えた人が堕ちてくるとは思っていなかったのだから。
 

「お、おい!人か・・・?」
海軍本部の訓練所の真ん中に黒い翼の生えた女性が堕ち、ぐったりと倒れている。
 そんな彼女を円を作るように、少し離れたところから訓練生たちは囲んでみていた。
 

片方しか生えておらず捥がれた方は血をトロトロと垂れて、体中傷だらけ、白いワンピースには血が滲んでおり裾は破いたようにボロボロだ。
 

「おぉ〜い、皆してあっしの訓練さぼるのか〜い?」
笑っているがその笑が妙に怖いのんびりした口調の男が群がる訓練生達に近寄りサングラス越しの目を疑った。
 「ん〜こりゃ、何の冗談だぁ〜?」
周りにいる訓練生たちを睨みつけ倒れ込んでいる女性の頬を優しく叩いた、しかし起きる気配もなく、訓練生たちはただざわめくだけだ。
 

「オジキ!訓練どうすんだよ!」変わった服装に巨大な武器を片手で持ち上げている男が、片翼の女性を横抱きにし医務室に向かう男に大声で叫んだが、後ろ向きで手を振るだけだった。
 「好きにやれってことだな」
 呆れた声で呟くとめんどくさいのか訓練を中断し解散させた。
 

 まだ、太陽がてっぺんに登り火を照りつけるお昼どきだが、こういうこともある。
 

 光の速さで、人体の本をめくりノートに写している医者のもとへ走ってきた男に無表情で挨拶をした。
 

 「ボルサリーノ大将、何ですその黒い翼をはやした女性は・・・」
 心の奥ではコスプレではないのかと疑う医師に気づいたボルサリーノは本当に生えているか確かめさせ、治療を行わせた。
 

 翼を治療・・・いや、これはもう背中の治療だ。
 左の羽は背中からもがれ右の羽は次列風切までなくなっていた。
体にはいくつもの切り傷や痣が目立った。
 

 「二度と翼は生えないでしょう、それからセンゴク元帥にも伝えておきましたから」
医者は冷たく言い放つと立ち上がりカルテを一番下の引き出しにしまいこんだ。
 

 そこには、あいうえお順に並んである大量のカルテが入っていた。名前もわからないのにどこにれるのかともいきや一番奥に突っ込むと引き出しを閉じノートに目を移した。
 

 「どうにかぁ〜ならねぇ〜のかぁ〜?」
”ならない”と即答されたボルサリーノはため息をつき診察室のベッドから彼女を横抱きにし隣の個室に運んだ。
 病棟の個室に運ぶとベッドに横にし布団をかけた。 


 「・・・・これじゃ〜まるで、悪魔じゃねぇ〜かぁ〜」
 羽を捥がれ地に堕ちた天使は悪魔と化す。ちょうど羽も真っ黒。
 羽根を一枚引っこ抜き親指と人差し指でつまむように持ち、くるくる根の部分を回した。
羽根の形もカラスの羽根と似ていた。
 

 「天使だか女神だか知らねぇーが羽根を引っこ抜くなよな」
 アイマスクをした男は、ベッドの横にある椅子に座っている同僚の肩に腕を置き、左肩に桜吹雪の刺青、翼の生えた女性の顔を覗き込んだ。
 

 苦しそうな顔をして汗をかいていた、悪い夢でも見ているのだろうか、それとも熱に犯されているのだろうか。
 

 どこだろうか、ここは・・・、真っ暗で何もない。何だあれは人影か・・・。
 「おい、見ろよ!」
「黒い翼だぞ!」
「かかわらない方がいいぞ!」
 「待って!どこ行くん!独りにせんで!」
皆、背中を向けてる、白い翼が暗闇のなか光っている。
何故だろう、私の翼はこんなにも真っ黒。
 「お願い、独りにせんで!おとん!おかん!」
 

 「捨てんで!」
勢いよく上半身を上げながら叫ぶ女性に驚いた二人は唖然としていた。
 「夢・・・・」
腰まである長い髪で表情が見れないが、布団を強く握り締めながら震えている、泣いているのだろうか。
 

 「お、おい・・・大丈夫か」
声に驚いたサカズキは涙の流れる顔でアイマスクの男を赤い瞳で見つめた。
 「こ、ここは・・・」
 

 クザンは涙を手で拭う彼女の頭を自分の胸に優しく押し付け頭を撫でてやった。
 こんな事をしてくれるのは彼が初めてだ、しかし、何故こんな自分をここまで優しく扱ってくれるのだろうか。
 天界にいた頃は黒い翼のせいで生まれた時から奴隷と同じ扱いをされてきた。
 両親からも見放されただ犯され暴力を振るわれる毎日、誰も優しく頭などなでてくれなかった、優しく抱きしめてくれなかった。
 

 「ここは何処・・・」
 椅子に座っているボルサリーノはサングラスをかけ直すと今まで起きたことを話し、病室から出て行ってしまった。
 

 めんどくさい事は当然関わりたくない、しかし放っておくわけにもいかない、ボルサリーノは元帥がいる部屋に向かって早足で歩いて行った。
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