リスパラ

□心臓の音、すごいね
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彼は悩んでいた。

悩んで悩んで大好きな食べ物の数々も喉を通らぬ程に悩んでいた。


彼は無口だ。その上無愛想である。
そんな彼はよくシェフであるテオに叱られている。

理由はそう、つまみ食い。


彼、ジジは大変に大食漢であった。


気づいたら食べている。もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ。まるでリスだと形容したのは誰だったか。


そんな彼が、悩んでいた。


誰から見ても彼が何やら悩んでいることは明らかであった。だってあのつまみ食い常習犯であるジジが全く食べないのだから。


いつもどこを見ているかわからない瞳をいつもに拍車をかけどこを見ているかわからないように虚空をさ迷い、そしてこれ。


「ふぅ………」


溜め息、である。



いつもつまみ食いをされ、いつも叱りつけているシェフであるテオは気が気ではなかった。だってあのジジが自分の自信作であるジェラートにさえ見向きもしないのだから。少し、いや、かなりショックであった。


溜め息ばかりつくジジの後ろで声をかけようかどうしようか右往左往するテオ。そしてそんな二人を温かく見つめるオーナーでありジジの弟でもあるロレンツォ。

このリストランテにいるもう一人のシェフ、フリオは不思議でならなかった。何故あんなにオーナーは落ち着いているのだろう?ジジの事が心配ではないのだろうか?


そんなフリオからの視線に気づいた我らがオーナー。にこりと、いつもの柔らかい笑顔で口を開いた。


「ジジなら大丈夫だよ。次の日には上機嫌さ。」


上機嫌?はてな。なんの事やらさっぱりだ。
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