Short story(女性向)

□特別な味
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船内の扉を開けると金髪に特徴のある
眉毛、咥え煙草をしながら今夜の
夕飯の下準備を進めるサンジのいる
厨房に入った。

「あれ? ユイちゃん。
何か欲しいものでもあるのかい?」
サンジは女性に限りなく優しい。
彼の優しさに限度があるのか
知りたくなってしまうほどに。

「えっと、欲しいものじゃなくて、
少し、厨房・・・使っていい?」
ユイは少し恥ずかしそうに
自然と上目遣いになりながらサンジ君を
真っ直ぐに見つめた。
ユイの手には小さなメモと
甘い香りが漂うピンク色の果実。

「そりゃぁ勿論、構わないよ〜。
ユイちゃんの頼みなら・・・?
ひょっとして、その果実は桃か?」
さすがサンジ。 さっきまで鼻の下を
いつものように伸ばしていたが、
ユイの持ってる物に
鋭く反応した。
最近立ち寄った島で、ユイは
サンジと一緒に食材の買い出しに
付き添っていた。
その時、ユイは一つの果実に
ハマってしまった。

甘い香りを漂わせ、中には白い果肉と
果汁が詰まった桃という果実。

「うん。 この前立ち寄った島で、
一軒のお菓子屋さんで、何とか頼んで
教えてもらったレシピを試したくて。」
好奇心が旺盛なユイは
桃を側のカウンターに置くと
サンジへにっこりと微笑んだ。

「試したいレシピ? それって、
この前、随分時間がかかった時に
言ってた収穫したものってやつかい?」
サンジはユイとの買い出しを
ぼんやりと思い出した。

「そうなの。 えっと、そのお菓子の
名前は忘れちゃったんだけど、
凄く美味しかったから、お店の
パティシエさんに頼んで、レシピを
書いてもらっらの。」
ユイはメモを見つめながら
道具や材料を揃えていった。

そのメモをサンジも覗き込むと
真剣な表情と慣れない手付きながらも
順序よく進めていくユイを
微笑ましく思い無意識に笑みが溢れた。

「ユイちゃん、何かあれば
俺も手伝うから遠慮なんかしないで
いつでも言ってくれよ?」
サンジはそう言うと自分の仕事に
再び取りかかった。

「・・うん、ありがとう・・・
何とか、いけると思う。」
何度もメモを確認しながら返答した。

そして暫くすると生地が出来上がり
冷蔵庫で冷やした。

「はう〜・・・やっと出来た〜。」
使った道具を洗い綺麗に水を拭き取り
元あった場所に仕舞うとユイは
ダイニングの椅子に身体を預けた。
「お疲れさま、ユイちゃん。」
サンジはさり気なく搾りたての
オレンジジュースをグラスに入れて
そっと出してくれた。

「サンジ君、ありがとう。」
ユイは甘酸っぱい搾りたての
オレンジジュースを喉に通した。
「ユイちゃん、今作ってたのは
アレだろ、ギモーヴって名前の
スイーツじゃないのかい?」
サンジは夕飯の準備をしつつ、
ユイが危なっかしくて
心配のあまり、見張っていたらしい。
その結果、ユイが何を
作っているのかも解っていた。

「あ〜、うん。 そんな名前だった。」
ユイはスッキリしたような表情で
サンジを見つめると、思い出した名前を
忘れないようにメモへ書き込んだ。
「そう言えばユイちゃん、
この前の街で食べてから、桃と
ギモーヴが気に入ったんだね。」
サンジは厨房が一段落したのか、
ユイの向かいの席に座った。

「やっぱサンジ君って凄いよ。
パティシエも越えちゃってるよね。
毎日のティータイムに出してくれる
スイーツとかホントに楽しみだもん。」
ユイは僅かに頬を赤らめ
嬉しそうに話した。

「ユイちゃんの為なら喜んで
好きなスイーツでも作ってあげるよ。」

「ありがとう。 そろそろ生地も
冷えた頃だから仕上げしなきゃ。」
ユイは椅子から立ち上がると
生地を冷蔵庫から出すとまたしても
危なっかしい手付きで慎重に
形を崩さないように切り分けていった。

「ユイちゃん、後は俺がやろう。
あまり刃物に慣れてないんだろ?
そんな手付きじゃいつ怪我するか
わかりゃしねぇ。」
サンジはユイの持つ包丁に
優しく手を添えた。

「うん・・・ありがと・・・
ねぇ、サンジ君。」
ユイは何かを思いついたように
カウンターへと身体を寄せた。
ユイがサンジへ手招きをした。
そんなユイの行動にサンジは
そっと耳を近付けた。

「あのね・・・・・・・・・・」
するとユイはサンジの耳元で
小さな声で囁いた。

「さすがユイちゃん。
じゃぁ、俺も手伝うからユイちゃんも
一緒に作るの手伝ってくれねぇか?」
サンジはユイの提案に同意し
早速準備をし始めた。

「勿論、手伝うに決まってるじゃん。」
ユイは張り切って厨房にいる
サンジに色んな事を教えて貰いながら
計画を遂行していった。
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