泥棒

□迷子札
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「……なんだこれは」
修行のため、今まさに部屋を後にしようとしていた五ェ門にそいつを渡すと、彼はまったく俺の想像通りに顔をしかめてみせた。
「何って、見りゃわかるだろう。迷子札だよ」
「迷子札!?」
からかうように言ってやると、五ェ門は眉を吊り上げた。
手渡した小さな紙の札には「いしかわごえもん」とご丁寧に平仮名ででかでかと書いてあり、更にひっくり返すと「保護者:次元大介」という文字と連絡先がサインペンで書かれている。
「修行の旅に出るってんなら、そいつを首にでもぶら下げて行きな。迷子になったら迎えに行ってやるから」
「…お主拙者を馬鹿にしておるな」
五ェ門は眉を寄せ、額に青筋を浮かべる。今にもそいつを握り潰してしまいそうな勢い。まったく、冗談の通じない奴だ。
「こんなものはいらん!誰が迷子になどなるか」
「おっと」
投げて返されたその札を、指ではさんでまた投げ返す。
「ま、そう言いなさんな」
「いらんと言っておる」
「そう言わずに」
「いらんっ!」
投げて受け取ってまた投げて、と繰り返すうちに、今にも斬鉄剣を抜きそうな雰囲気になってきたので一旦札を受け取り、裏返して五ェ門の鼻先につきだしてやる。
「よーく見てみな」
「……発信器!?」
「ご名答」
「一体どういうつもりなのだ、お主は!」
発信器を見つけた五ェ門は、肩を怒らせながら俺の眼前に迫ってきた。
(…鈍いねぇ)
これだからうちのお侍さんは頭が堅くて困る。
膨れっ面の五ェ門の髪の毛をさらり、と撫でてやる。
「わからねェかい?」
「知らぬ!」
ふぅ、と溜め息をひとつ。
五ェ門の耳に顔を寄せ、そっと耳打ちしてやると、たちまち耳を真っ赤に染めて俺の手から紙切れをひったくり、バタンと荒々しくドアを閉めて出ていってしまった。


「お前さんに会いたくなったとき、俺がいつでも迎えに行けるようにさ」

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