しっぽや1(ワン)

□歓迎会&合格祝いパーティー〈後編〉
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「巻き込まれたと言えば、お前がソウちゃんと会わせてくれたんだったな
 それに関しちゃ、本当に感謝してる」
「元はと言えばウラの方が先に声をかけてきたんだけど、しかも強引に
 勝手に巻き込まれに来たんだろうが
 あの時は、ふんだくりやがって」
「その分の仕事はしただろ?おかげで、またあいつとヤル羽目になってマジで寝そうになったぜ」
日野とウラが何やらヒソヒソと話し込んでいた。

「ウラと大麻生って、何持ってきたの?
 日野がダークホースとか言ってたから、ちょっと期待してたんだけど」
俺が話しかけると2人はワザトラシい作り笑いで
「荒木好みのモンを持ってきてたよ、案外気が利くよなウラのくせに」
「俺とソウちゃんの燃えるような愛の結晶、強火が決め手の中華だぜ
 プリプリエビ炒飯と海鮮八宝菜!
 エビフリッターを入れた八宝菜なんて、店じゃ食べられない豪華一品!
 巻き寿司はちょっと休んで食ってけよ」
ウラが俺に差し出した取り分け皿には、炒飯と同じ量のエビがのっていた。

「凄い!こんなに良いの?」
俺は早速エビを口にする。
絶妙な火加減のせいかプリプリのエビから旨みが口いっぱいに広がった。
「炒飯巻いてみようと思ったら、エビが邪魔で上手く纏まらなかったんだよ
 せっかくだからエビだけ除けて、荒木用に分けといた
 ご飯がパラパラだったから八宝菜の汁で湿らせて、薄焼き卵作ってまいたら味的にもバッチリ
 俺、巻き寿司の才能ありすぎじゃね」
日野が得意げに差し出した皿には、黄色い巻き寿司が並んでいた。
姿が見えないと思っていたら、キッチンで薄焼き卵を作っていたようだ。

「皆にも味見してもらってくる」
日野が立ち去ると
「荒木、こっちも食ってみ」
ウラが新たな皿を差し出してきた。
「美味しい、エビフリッターの八宝菜なんて初めて!」
「実は、荒木のために中華でエビメニューを考えて欲しいと白久に頼まれたのです
 作り方と火加減を教えたので、そのうち白久が作ってくれますよ」
「荒木少年、愛されてるー」
大麻生とウラは笑ってそう言ってくれた。


大麻生の料理を食べ終わり、俺は月さんとジョンの元に向かった。
何を持ってきたか気になっていたし、頼みたいこともあったからだ。

「やあ、巻き寿司屋さんが来たね
 生憎僕達のとこには巻いてもらえるような物が無いんだよ」
月さんは苦笑するが
「今日は『たこ焼き』屋だからな、俺達らしい真ん丸満月たこ焼きだ」
ジョンは得意げにウインクしてみせた。
2人の前にはたこ焼き機が置いてあり、2人は器用に生地を丸めてひっくり返したりしている。

「クリスマスパーティーの時と被っちゃうけど、自分達で作ると好きな具で作れるから良いよ
 はい、荒木君にと思ってエビたこ焼き作っといたんだ
 タコが入ってないのにたこ焼きって、変だね」
月さんがまん丸のたこ焼き(エビ焼き?)がのった皿を渡してくれた。
まだ温かく、のせられた鰹節が踊っている。
香ばしいソースの香りが美味しそうだった。
「巻き寿司は後にして、温かいうちに食べて」
俺はその言葉に甘え、早速たこ焼きを口にした。

「美味しい!これ、生地に桜エビを混ぜましたね
 香ばしいエビとボイルエビ、どっちも楽しめるなんて贅沢」
「自作ならでは、生地に混ぜる色んな具を用意してみたんだ
 ネギ、天かす、紅生姜、タマネギみじん切り、ツナ、桜エビ、タクワンみじん切り」
「俺達の研究成果を披露できて嬉しいぜ
 まあ、いつも作るのはたこ焼きじゃなくお好み焼きなんだけど
 店が忙しい時とか、昼飯でさんざん作ったなー」
「冷蔵庫の大掃除にも役に立つし」
月さんとジョンは懐かしそうな顔で笑っていた。

俺は2人のためにささみフライとお刺身、チキンの巻き寿司を作る。
「上手いもんだねー、僕は巻き寿司って自分じゃ作れないよ」
月さんに感心した顔を向けられて照れくさかったが
「俺も作れるようになったの最近です
 今日のためにいっぱい練習したから」
俺は少し誇らかにそう言った。

「実は月さんに相談したいことがあったんです、ちょっと良いですか?」
俺が切り出すと、巻き寿司を食べている月さんが不思議そうな顔を向けてきた。
「制服って、春休みにクリーニングに出した後どうすれば良いのかな
 俺、あげるような後輩も居ないし
 捨てるならクリーニングに出さないのが普通ですか?」
「荒木君、制服捨てちゃうの?」
逆に問い返され俺は驚いた。

「だって、卒業したらもう着ないでしょ
 って言うか、着てたら変じゃないですか」
「新地高の制服ってオシャレだから勿体ない気がするな
 白以外のシャツにブレザー合わせて校章外して『私服』みたいに着てみるとか
 ネクタイしなければ、そんなに制服っぽくなく見えなくなるかも」
「俺がそれやったら、在校生が制服着崩してるみたいに見えます」
卒業しても、暫くは高校生に見えそうなことは自分でも自覚していた。

「荒木君が高校生の時にしっぽやで白久と出会った記念に、とっておくのも良いんじゃないかな、暫く飾っておけば?
 僕は高校生の時の思い出って特に無かったし、制服は引っ越す時に処分しちゃったんだ
 後になって、寂しい学園生活だったなってちょっと思った」
月さんに言われ、制服には白久との思い出が詰まっていることを思い出した。
あの制服を着ていて初めて白久に会ったのだ。
それに気がつくと捨てるのは忍びなく
「月さんとこに、クリーニング頼んで良いですか」
俺はそう聞いていた。
「もちろんだよ、まだ卒業式で着るんだよね
 終わったら、いつでも良いからしっぽやに持ってきておいて
 卒業祝いで無料にしとくよ」
悪戯っぽく笑う月さんに
「はい!」
俺は元気に返事をした。
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