しっぽや1(ワン)

□歓迎会&合格祝いパーティー〈後編〉
1ページ/5ページ

side<ARAKI>

楽しかった巻き寿司修行を経て、歓迎会&合格祝いパーティーの日がやってきた。
俺と日野は午前で仕事を上がらせてもらい、ゲンさんの部屋でパーティーの準備を手伝うことになった。
まだ仕事中の白久と黒谷の分までと思い、張り切ってテーブルに大量の食器類を用意する。
取り分け皿は長瀞さんが洗う手間を考えて紙皿にしていた。
日野は黒谷の部屋とゲンさんの部屋を何往復もして、巻き寿司用のご飯や具材を運び込んでいた。

長瀞さんには今回の俺達のメニューを伝えてあるので、流用させてもらえそうな野菜を使ったサラダを用意してもらう。
もちろん、俺と日野もサラダを作るのを手伝った。
長瀞さんはオーブンでチキンを焼く傍ら、大根を切ってツマを作ったりと大活躍している。
1人だけ忙しそうで申し訳なく思ってしまったが、長瀞さんはゲンさんに色んなものを食べさせられるとあってご機嫌で料理の準備をしていた。

やがて桜さんと新郷がやってきて魚を捌き始めた。
鯛や鯵はスーパーで三枚卸しにしてもらっているので、皮を引いて手早くお刺身にしていく。
マグロやハマチ、サーモンの柵もあっという間にスライスされてきれいに盛りつけられていた。
今回の俺達の意向を伝えると、喜んでお刺身を分けてくれる。
それを使わせてもらい、俺達は最初にテーブルに置く分の豪華海鮮太巻きを作っていった。


月さんにジョン、ナリ、ペットショップを早く上がらせてもらったカズハさんやウラ、続々と人が集まってくる。
今回は中川先生も早めに来れたし、しっぽやも早めに業務終了したので7時前には全員がテーブルに揃っていた。
テーブルの上には山のようにご馳走が置いてある。
出し切れないものがキッチンで順番待ちをしている状態で、デザートも冷蔵庫でスタンバイしていた。

「では、お待ちかねのパーティーを始めることとします
 まずは、乾杯!」
ゲンさんが音頭をとると
「「「「乾杯!」」」」
沢山の声がそれに応えた。
自分の隣に座る者、向かいに座る者、席を移動して遠くの者と俺達はグラスを触れさせ皆で乾杯をする。
ビールやコーラ、オレンジジュースにウーロン茶、皆それぞれに飲みたい物を楽しんでノドを潤していた。

「今回はウラとナリの歓迎会だったな
 既に馴染みすぎてて新入りっつー感じがしないが、まあお約束だ」
ゲンさんの言葉で俺達先輩飼い主が
「しっぽや世界へようこそ
 これからも大麻生とふかやを可愛がってください」
2人の後輩飼い主にそう言葉をかける。
ウラは珍しく殊勝な顔をしてコクコクと頷いていた。
少し目元が潤んでいるのは気のせいではなさそうだ。
柄にもなく感動しているようだった。
対してナリはいつものように穏やかな微笑みを浮かべ
「これからも、ふかや共々よろしくお願いします」
そう言って頭を下げていた。

「そうだ、後からもう1人、友人が飼い主に加わるんです
 彼のこともよろしくお願いします
 格好つけたがる人だけど、悪い奴じゃないんで仲良くしてやってね」
ナリはクスクス笑っていた。
「バイクで事故った人だ」
俺と日野が反応する。
「運転技術は私より上だと思うよ、彼が入院するほどの転倒したの初めてだし
 あの時は、ちょっと焦ってて飛ばしすぎてたみたい」
ナリは苦笑してフォローするが、俺と日野は顔を見合わせて
『でも習うのはナリにしよう』
目で語り合い頷き合った。

「んで、今回は荒木少年と日野少年の大学合格祝いも兼ねてます
 合格おめでとう、お前等が頑張ってたの知ってるから嬉しいよ
 学業とバイト、大変だろうがこれからも充実した青春を送れるよう願ってるぜ」
ゲンさんが二ヤッと笑うと
「「「合格おめでとう」」」
皆が次々に祝福してくれて、合格は出来たけど1校落ちている俺は照れくさくて仕方がなかった。
「本当に、頑張ったな
 受験生受け持ったの初めてだったから、2人は俺のクラスの生徒じゃないとは言え本当に感慨深くて」
今度は中川先生が目元を潤ませていた。
「サトシも、遅くまで頑張ってたよ
 皆の進路が決まるまで気を抜けないって、ずっと心配してたし」
そんな先生を労うように、羽生が身を寄せて額を肩にそっとのせる。
「羽生が支えてくれたから、頑張れたんだ」
先生は羽生の髪を優しく撫でていた。

「そうそう、俺達らしいメニューかどうかビミョーだが、今日は学校の帰りにささみフライ買ってきたんだ
 野上と寄居には、あの店の食べ納めになるんじゃないかと思ってさ
 あそこ、生徒に人気高いよな」
先生が用意してくれたのは、学校最寄り駅の側にある肉屋の揚げ物だった。
「待ってました!」
「きっと先生はこれを買ってきてくれるんじゃないか、って思ってたんだ」
俺と日野が興奮して喜んでいるので、中川先生は呆気にとられた顔になった。

「俺達、今回のお題は合同で用意することにしたんです
 今から開店、運命の巻き寿司屋です」
「皆の運命と言うかメニュー、巻き寿司に致します」
俺達は飼い犬と共に立ち上がり、恭(うやうや)しく一礼してみせた。

それは、この最大規模のパーティーにおける俺と日野の活躍(?)が始まる瞬間だった。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ