しっぽや1(ワン)

□引っ越し祝い
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side<HUKAYA>

化生してから僕の生活は、珍しい体験の連続だった。
人の体で生きていくことに最初は戸惑ったけど、直ぐに馴染むことが出来た。
それは僕が所属する『ペット探偵 しっぽや』の仲間達のおかげであった。
犬だったときにあのお方を見て覚えていたことの他に、彼らに人として生きていくことを教わることが出来たのはありがたいことだった。
化生という特殊な生き方であっても仲間が居てくれることは心強く、飼い主のいない孤独を和らげてくれた。

しかし飼い主が出来てからは、飼い主を真似て生活していく事が楽しかった。
飼い主の役に立てるよう頑張って、誉めて貰えることが無情の喜びとなっていた。
飼い主と早く一緒に暮らしたくて、僕は引っ越しの荷物移動を張り切って行っていた。
飼い主であるナリや、仲間の化生達、その飼い主達も手伝ってくれたため当初の予定より早く引っ越し作業を終えることが出来た。
ナリが元々飼っていたバーマンの兄妹を部屋に迎え入れ、引っ越しは完了する。
僕たちは出会ったのと同じ月のうちに、一緒に暮らすことが出来るようになっていた。
『飼い主と再び暮らすこと』それは僕にとって夢のように嬉しい出来事なのだった。


「新しい仲間に、乾杯!」
「「乾杯!」」
今日は引っ越しを手伝ってくれた大麻生と空、その飼い主であるウラとカズハを招いて部屋でささやかな引っ越し祝いパーティーを行っていた。
「乾杯を、ミルクティーでするのがミソだぜ
 健全だなー俺ら
 今日の茶葉はCTC製法のアッサムでーっす」
ウラがキシシっと笑っている。
「そして、ミルクティーのお茶請けが豆大福と煎餅なのもミソかな
 こーゆー組み合わせ、ふかやの前の飼い主さんの真似なんだ
 あんな風に自由な発想で物事を楽しみたくてさ」
ナリがカップを口にして楽しそうに微笑んでいた。
「僕はお祝いなのでベタベタの紅白饅頭を持ってきました
 ナリのとこは猫がいるからさらにベタな『かるかん紅白饅頭』
 これ、皮に山芋が使われてるから軽い口当たりなんです」
カズハが照れた顔で箱をナリに手渡している。
「『かるかん』!猫飼いは反応しちゃうよ」
「ペットショップ店員も反応するぜ
 ペットフードのメーカーやら商品名、随分覚えたもんな
 勉強と違って覚えるの楽しくてさ」
楽しそうに笑いあっている飼い主を見る僕達飼い犬も、嬉しい気持ちでいっぱいだった。


『フカヤ、皆、ボクノコト可愛イッテ言ッテルンデショ』
盛り上がっている気配を察して、バーマンのヤマハが部屋にやってきた。
一緒に暮らすようになってヤマハはすっかり打ち解けてくれていた。
化生と言う存在にも物怖じせず近寄っていく。
『イイヨ、ボクノコト触ッテモ』
「お、もじゃもじゃが来た、モジャー」
空がヤマハを抱き上げて
「デケー、俺みたいな愛玩犬に比べるとデケーなお前」
そう言って頬ずりする。
『コノでかい犬、イツモ自分ノでかサヲ自慢スルヨネ
 僕ハマダ小サナ子猫ダカラ分カンナイケド』
空とヤマハの会話はかみ合っていないものの、馬が合うのか仲は良かった。
真面目な大麻生はそんな2人の会話に突っ込みを入れるべきかどうか、複雑な顔で悩んでいた。

『ほら、スズキもおいで』
ヤマハの真似をしたいけれど大きな犬の近くに行くのが怖くて部屋の隅でモジモジしているスズキを、僕は抱き上げてテーブルの側に連れて行った。
スズキは必死にしがみついてくる。
彼女も随分僕に打ち解けてくれていた。
『守ってあげるから大丈夫だよ
 僕が犬達に襲われている隙に、スズキとヤマハとナリは逃げると良い』
『デモ、フカヤガ食ベラレチャウ』
『僕も噛みつき返すから、時間を稼げるよ』
僕達のやり取りにも大麻生は何か言いたそうな顔になっていたが、怯えるスズキに気を使い言葉を発することはなかった。


「実際に引っ越すのは来月になると思ってたけど、皆が手伝ってくれたおかげで今月中に移ってこれたよ
 本当にありがとう」
ナリが改めてウラとカズハに頭を下げた。
「ふかや、越してきたばっかだったから荷物少なかったし、ナリの荷物なんて殆ど無いし、業者頼む程じゃないもんな
 それに比べると、俺、服とアクセサリー増やしすぎたかも
 引っ越しメンドそう」
ウラは腕を組んで考え込んでいる。
「家具や家電が新居に備え付けられているのって、時短になって良いですね
 僕も少しずつ空の部屋に荷物運んでおこうかな
 今回の手伝い、自分の予行演習になって良かったです」
カズハはナリに笑顔をみせた。
「2人が引っ越すときは、手伝うから遠慮なく呼んで
 多分、私が一番仕事時間に余裕あると思うから」
頭をかくナリに
「分かんないぜ、うちの店の売れっ子占い師になるかもしれないもんな
 シフトも週5でビッシリかも」
「繁忙期は品出しバイトにかり出しちゃうかもしれないから、忙しくなってくるんじゃないかな」
ウラとカズハは悪戯っぽそうに笑いかけるのであった。
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