しっぽや1(ワン)

□楽しい仲間
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side<ナリ>

今まで猫しか飼ったことのなかった私が犬を飼うことになった。
『犬』と言っても、それは一般的な犬とは違っている。
死んだ犬や猫が獣の輪廻の輪から外れ、新たな飼い主を得るため人を模した存在となり人に化けて生きていく、彼らは『化生』と呼ばれていた。

化生の拠点となっているのは『影森マンション』という高層マンションであった。
最上階には飼い主の居ない化生の部屋、その下2階分は飼い主と化生が共に暮らせる部屋として貸し切り状態になっている。
一般の入居者とあまり顔を合わせずに済むよう、移動には暗証番号が必要な専用エレベーターが設けられていた。
このマンションの特殊性には驚くばかりだった。


ふかやを飼った直後、マンションを管理している不動産屋のゲンの部屋に、私は愛犬と共に相談に訪れていた。
ゲンとは既に顔見知りだ。
私がふかやを飼うことになって、とても喜んでくれている。
「すいません、仕事の後で疲れてるのに時間をとらせちゃって
 夕飯までご馳走になって、何だか申し訳ないです」
恐縮する私に
「遠慮しなくて良いんだって、俺達化生関係者は家族みたいなもんだからよ
 ナガトの料理を自慢できる相手が居てくれるのも、嬉しい晩餐だ
 お客がいるときは、とっときの瓶ビール出せるしな
 さ、グッとやって」
ゲンは上機嫌でビールを注いでくれた。

「ふかやと一緒に住むなら、世帯用の部屋にするか?
 最近は飼い主出来てもワンルームから移動しないケースもあるが
 引っ越しは一気に済ませた方が楽だかんな
 どーせこっちに来るんなら、新しい部屋に荷物運んだ方が効率的だぜ」
「確かにそうなんですが、無料で広い部屋を使わせてもらっちゃって良いのか気になっちゃって
 普通に借りたらけっこう家賃取られますよね」
私は気になっていたことを聞いてみた。
「まあ、入居人の審査あるから相場よりは押さえてるが、上階だから5桁じゃ借りられないな
 ただ、俺達は化生のお世話係も兼ねてるんで、オーナーの特別配慮で無料なのさ
 ヤバい、俺、逆にナガトにお世話されてる」
オドケるゲンに
「私は好きでお世話してるから良いんです
 第一、ゲンは他の化生の飼い主のお世話やこのマンションの管理もしているのですから、私の世話よりずっと立派なことをしていますよ」
彼の飼い猫である長瀞が誇らしげな顔で寄り添っていた。

「後、ふかやと一緒に猫も飼いたいけど、それって良いのかな」
私はドキドキしながら聞いてみた。
ペット可マンションではあるものの、化生を飼うことを前提に無料で住まわせて貰うなら難しいのかも、と思ったのだ。
「俺、越した当初はヒマラヤンも飼ってたぜ
 ナガトとマリちゃん、そんなに仲良くなかったのに悪いな、と思ったけどさ
 ふかやが気にしないなら良いんじゃねーの?」
「私は、マリさんからゲンを奪ってしまったから嫌われてたんです
 それでも、最後は見送らせていただけました」
2人の言葉に、私は頷いた。

「そうですね、この部屋には穏やかな猫の気配しかありません
 嫌う、と言っても決定的に仲が悪い訳ではなかったのでしょう
 当たらず障らず的な感じだったのでは」
つい口をついてしまった言葉に、2人の顔に驚愕が走る。
「ナリは死んだ者を感じることが出来る占い師なんだ
 それに、僕たち獣と通じることも出来るんだよ」
ふかやが得意そうに説明すると
「アニマルコミュニケーター、タケぽんと同じか
 しかも、死んだものも感じ取れるなんてスゲーな」
ゲンは呆然と呟いていた。

気味悪がられるかと思ったけど、ゲンは私の能力について特に大仰な反応を示さなかった。
そのことに私はホッとする。
考えてみれば私の能力より、化生という存在の方が特殊性では上である。
化生の飼い主にとって私の力は『ちょっと変わった個性』くらいでしかないのだろう。
その後の会話は、最初のように引っ越しの話に戻っていった。


「ふかやは越してきて浅いから荷物そんなに多くないだろ
 家電なんかは新しい部屋に一式揃えてあるんで、持ってかなくて済む
 部屋はキープしてあるから、自分らで少しずつ荷物運んで良いぜ
 俺も休みの日なら手伝えるし
 それとも、業者頼んで一気にやるか? 」
ゲンの言葉に私とふかやは顔を見合わせる。
「私の荷物は最初から新しい部屋に運んでおけるし仕事が軌道に乗るまで時間有るから、こっちにいる間はふかやの部屋の荷物、私が運んでおこうか」
「僕も仕事の後とか休みの日に運ぶよ
 ナリと一緒に住めるんだもん、頑張る」
ふかやは満面の笑みで私を見てくれた。

「そうだな、部外者入れるより自分らでやった方が機密保持的にも良いか
 秘密組織っぽいな俺ら」
ゲンはヒヒッと笑った後
「そうだ、他にも助っ人頼めそうな奴に声かけとくかな
 ナリが作業するのって昼間だろ?
 シフトにもよるが、昼に手伝いに回せそうな奴がいるんだ
 しっぽやのシフトを控えめにしてもらえば余裕だろ」
何だか楽しげに計画を練るのであった。
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