しっぽや1(ワン)

□先輩で後輩
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side<ARAKI>

冬休み明けのクラス内は近付いてくる受験のため、心なしかピリピリしている。
予備校に行く生徒が多いので、授業も午前中で終わる日が増えていた。
今日は午後まで授業がある。
参考書を読みながらパンをカジったりしている者も多い中、俺と日野は机を寄せ2人でしゃべりながら普通に昼の時間を過ごしていた。

「これ、婆ちゃんから荒木にって
 いつも昼はビニ弁食べてるって言ったら、栄養とか心配してたよ」
日野が差し出してきたタッパーには、鶏肉と根菜の煮物、ほうれん草とベーコンのソテー、小松菜と油揚げと小女子(こうなご)の炒め物が入っていた。
アルミホイルに包まれた、ひじきご飯のオニギリも付いている。
「やったー、お婆さん特性弁当」
俺は有り難く弁当を受け取ると、早速箸を付けた。
事前に連絡をもらっていたので、コンビニには寄らずに学校に来ていたのだ。
「白久の作る和風おかずとはまた違った美味しさ
 余所ん家のおかずって、珍しくて美味いんだよなー
 家の食卓、出来合いおかずも多いからさ」
「オバサン仕事してんだから、しょうがないじゃん
 うちも婆ちゃん居なかったら、って考えると悲惨だぜ」
日野は肩を竦めて、オニギリにかぶりついていた。

「荒木、ふかやに飼い主出来たって聞いた?」
「うん、白久から連絡あったよ
 上手くいったんだね、良かった
 俺の時と依頼内容が被ってた感じで、心配だったんだ
 白久が1人で頑張ってたみたいに、ふかやも1人で頑張ったんだなって思うと人事とは思えなくてさ」
俺は白久からふかやのその後を聞いて、一安心していたのだ。
「俺、もうふかやの飼い主と会ったぜ」
日野は意味深にニヤリとする。
俺はその言葉に驚きを隠せなかった。
「マジ?いつ会ったの?その人ってもう、ふかやと暮らしてんの?
 どんな感じの、いくつくらいの人?」
気になって、つい色々聞いてしまう。

「こないだバイトの時に、タケぽんと一緒に会ったぜ
 ナリ、暫くは実家とふかやの部屋を行き来するって言ってたかな
 こっちで仕事の地盤を固めてから越してきたいらしい
 ナリん家、ここから遠いんだ
 あ、『ナリ』ってふかやの飼い主の名前」
訳知り顔の日野を、俺はポカンと眺めてしまった。
「仕事…ってことは、もう社会人なのか」
学生の俺には、仕事をしている人はもの凄く『大人』に感じた。
「社会人、と言うには、ナリって少し特殊かな」
日野は首を捻っている。
「ま、特殊性で言えば、ウラの方がよっぽど特殊な気もするけどな」
1人で納得して頷いている日野に、俺は何と言っていいかわからなかった。

「ナリ、凄いんだぜ」
重大な秘密を打ち明けるよう、日野が大仰な顔で囁いた。
「彼、霊能者でアニマルコミュニケーターで占い師なんだ」
日野の言葉を聞いて
「はあ?何だそれ?」
俺は思いっきり訝しげな声を上げてしまった。
「やっぱ、そう思うだろ?」
日野はニヤニヤ笑っている。
「思うもなにも、何かヤバそうな人じゃん
 宗教関係者とかじゃないよな、そんな人達に化生のことバレたら大変だぜ」
思わず顔をシカメてしまう。
「ミイちゃんに取り入ろうとされても困るしさ
 ミイちゃんって、何気に大物だろ?
 だから武衆がいて、波久礼とかが守ってんじゃん」
まだ納得のいかない俺に
「ああ、そういやそうだな」
日野は『今、気が付いた』と言わんばかりの顔になる。

「あれ?荒木って、今日の夕方はバイト?」
急に話を逸らされ
「うん、泊まりじゃないけどな」
俺は不満気に答えた。
次に泊まりにいけるのは、受験が終わってからになってしまうのだ。
「せめて夕飯は白久と食べに行くよ」
そんなささやかなことでも、今の俺には十分なご褒美だった。
「ナリ、まだこっちにいたよな
 丁度良いや、ナリが荒木に会いたがってたんだ
 お前のこと占いたいとか言っててさ」
言うが早いが、日野はスマホを取り出してメールを作成し送信していた。
「え?おい、ちょっと」
戸惑う俺にお構いなしに、日野のスマホが振動する。
「すぐ返事が来るとか、タイミング良いじゃん
 やったな荒木、ナリも事務所に来れるって
 霊感占い師に占ってもらえる機会なんて、滅多にないぜ」
日野はニヤニヤ笑っていた。
「なら、お前が占ってもらえば良いじゃんか」
俺の言葉はきつい響きを帯びたものになってしまった。

「俺はもう手相視てもらったから良いの
 つか、カードでは荒木かタケぽんを占いたいらしい
 お試しだから、無料でやってくれるってさ」
「この状況で金取ったら押し売りだろ
 俺のは断りの連絡してタケぽんに頼めよ、胡散臭そうで嫌だよ」
全力で拒否したが、日野は聞いてくれなかった。
「俺も最初は、メチャそう思ってた
 でも、ナリなら大丈夫だって」
何が大丈夫なのかちっとも分からなかったが、日野に押し切られるかたちで、俺はふかやの飼い主に占われてしまうことになったのであった。
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