しっぽや1(ワン)

□2年目の初詣
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side<ARAKI>

白久との楽しい思い出が沢山出来た年が明け、新たな年がやってきた。
朝のベッドの中で俺は清々しい気分を感じながらも、いよいよもって受験が近づいてきた緊張でゲンナリしてしまう。
それでも明日は白久や日野、黒谷と一緒に初詣に行き、その後は受験前の最後のお泊まりが待っている。
それを考えると、ゲンナリ気分は吹き飛んでいた。

俺は新年の挨拶を両親と交わし、お年玉を貰ってお節(せち)を食べて元旦は家でダラダラと過ごす。
三が日くらいは勉強を休んでも許されるだろう、そんな思いで退屈な正月番組を眺めつつカシスと遊んでやっていた。
カシスはかなり太(ふと)ましく育っているが、まだ若いのでそれなりに機敏にジャラシを追っている。
親父も混ざって2人でジャラシを振っても、動きについてこれるのだ。
俺達はつい夢中で遊んでいたが
「そろそろ止めたら?カシスの目が血走ってきてるわよ」
呆れたような母さんの言葉で、俺と親父の動きが止まる。
カシスは動きが止まってしまったジャラシをそれでもパシパシと叩いていたが、確かに目がイってしまっていた。

「2人ともお疲れさま、少しはカシスのダイエットになったかしら」
母さんがテーブルにお茶を置いてくれる。
「こっちも夢中になりすぎたな」
親父は少しバツが悪そうな顔で頭をかいていた。
そんな親父に
「ほら、あなた」
母さんが何かを促すように声をかける。
親父は少しブスッとした顔をしていたが、ノロノロとタンスに近寄ると引き出しから細長い箱を2個取り出した。
「あー、何だ、これはお年玉のオマケと言うか
 この前の模試の結果が、お前にしては良かったご褒美と言うか…」
親父は何やらブツブツと言っているが、要領を得ない。
「息子相手に、何照れてんのよ
 これ、お父さんからのプレゼント
 バイト先の先輩、白久さんだっけ?イケメンの彼と一緒に使いなさいって」
母さんが先回りして言うと
「ああ、僕が言おうと思ってたのに」
親父が情けない声を上げる。

「え?白久…先輩の分も?」
驚いた俺が思わずもらした言葉に
「色違いのお揃いの腕時計だ
 時間には遅れないようにするんだぞ
 お待たせしないようにな」
親父はもったいぶった感じでそう告げた。
親父の中で『白久=ハチ公』はまだ続いていたらしい。
スマホがあるし別にわざわざ腕に時計を巻かなくても、と思ったけど白久を認めてくれる親父の厚意は嬉しかった。
「あ、ありがと
 明日は先輩や日野と初詣行くから、その時に渡すよ」
照れくさい気分で箱を受け取りお礼を伝える。
「何も、泊まりがけで初詣に行かなくても…」
また親父のブツブツが始まったけど、いつもよりは強固にからんでこなかった。
「ほら、遊び疲れてカシスがオネムみたいよ
 あなた、一緒に昼寝でもして寝正月満喫しなさい
 私は、撮り貯めてたDVD観なきゃ」
母さんの一言でリビングは解散となり、俺は部屋に戻っていった。


ベッドに腰掛け、俺は親父から貰った同じ大きさで同じ包装紙の箱をシゲシゲとながめてみる。
『色違いのお揃いって、これ、どっちがどっちの?』
誰宛なのか付箋でも貼っといてくれればいいのに、親父のやることはどこか抜けていた。
仕方ないのでなるべく丁寧に包装紙を剥がして中身を確認してみたら、バンドの色が違うだけの腕時計が入っている。
バンドの色は赤と黒だった。
『だから、どっちがどっち?
 てか、男性用なら茶と黒とかじゃないの?』
確認しようとしただけなのに、混乱は増すばかりである。
『白久=ハチ公なら、赤が白久だよな
 でも、映画のハチ公の首輪って黒だったっけ?
 かといって、俺が赤い方付けるの抵抗あるな…』
悩んだが、やっぱり俺は黒い方を貰うことにした。

箱から時計を取り出して、試しに腕につけてみる。
自分には必要のないアイテムだと思っていたけど、実際身につけてみると満更でもない気分になってきた。
『何か、けっこー格好いいじゃん』
俺は時計をはめた左手首をマジマジと見つめてしまう。
思わず、白久の手首に赤いバンドの時計が巻かれているところを想像してしまった。
『白スーツの腕の裾からチラ見出来る赤いバンド、可愛いかも…
 白久、赤が似合うから』
俺は親ばか気分丸出しで、頬が緩んでしまうのを感じていた。

せっかくだし、明日は腕時計に併せて黒っぽい服で行こうと思い立つ。
クローゼットを開けると、俺はあれこれ悩み始めた。
『初詣用に新しいコートでも、買っとけば良かった
 年末セールあちこちでやってたのに、模試に気を取られて気が回らなかったよ』
以前の俺はあまり服装に拘(こだわ)らなかったが、最近は白久に相応(ふさわ)しい飼い主に見えるかどうか気になっていた。
何を着ていても白久は俺のことを『可愛い』って言ってくれるけど、年の最初くらいビシッと決めてみたかったのだ。

かろうじて買ってあった新しいスニーカーや、最近は着ていなかった服を用意し俺は明日に備えるのであった。
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