しっぽや1(ワン)

□初めての後輩
1ページ/4ページ

side<KAZUHA>

化生の関係者に、新しい仲間が加わった。
大麻生の飼い主『山口 浦(やまぐち うら)』さんである。
大麻生は僕の飼い犬の空と同じ武衆(ぶしゅう)で働いていたこともあるので、しっぽやに戻ってきた後は親しくしていた。
真面目な大型洋犬で好ましい化生のため、飼い主が決まったことは素直に嬉しいことであった。

浦さんはとてもキレイな方で、初めて会ったときは猫の化生だと思ってしまった。
失礼なことを言ってしまった僕に浦さんは気分を害した様子もなく、店のバイトをしてくれると言ってくれた。
今まで、こんなに派手でキレイで自信満々な人に普通に接してもらった事がなかった僕は、とても驚いてしまう。
彼のような人たちは、大抵僕みたいな弱虫が嫌いなのだ。
何もしなくとも側にいるだけで不興を買って嫌なことを言われることが多く、僕はいつも身構えてしまっていた。
けれども浦さんは違う。
『化生の関係者』
それは最初から心開ける証のように感じられた。



今日はウラさんが店のバイトに面接(僕から頼み込んだことではあるが、便宜上面接が必要なのだ)に来てくれた。
初めて会ったときより大人しめの服装にアクセサリー類は抜き、髪は結わえてもらっているけれどとてもキレイな人だから、一緒に歩いていることに少し引け目を感じてしまった。

面接の後、僕は馴染みのドッグカフェでお礼にランチを奢ることにした。
『しまった、こーゆー人はファミレスとか一般的な店の方が良かったのかも』
僕は早くも自分の迂闊さ加減に落ち込んでしまう。
しかし彼は店内をキョロキョロと見回して
「俺、ドッグカフェなんて初めて
 犬と一緒に入れるって、格好いい店じゃん」
輝くような笑顔を見せてくれた。
ホッとした僕はメニューを手渡し
「僕の奢りなので、好きなものを頼んでください」
普通にそう言うことが出来た。
「すげー、どれも美味しそう
 ローストビーフサンドだって、ポテトも付いてて超ボリューム!
 良いじゃん、俺、これにしよっと」
浦さんが迷わず空のお気に入りメニューを選んだので、僕は思わず笑ってしまった。

「?」
浦さんに不思議そうな顔を向けられ
「あ、いえ、もっとヘルシーなのを頼むのかと」
僕は慌ててしまう。
「いやいや、まだ育ち盛りだし、肉食系っすから
 とは言え、体型には気を付けないとなー」
彼はお腹の辺りをさすってみせた。
浦さんは顔がキレイなだけでなく、体つきも美しかった。
自分の貧弱な体型に、また彼に対し引け目を感じてしまう。

「僕は秋鮭とキノコの和風パスタにします」
「秋っぽい限定メニュー!それ、俺もちょっと気になってたんだ
 婆ちゃんの料理で育ってるから、俺、和食系も好きでさ」
浦さんが瞳を輝かせるので
「取り分け皿もらって、少し食べてみます?」
僕はそう提案してみた。
「シェア良いね!
 俺のも食べて、カズハ先輩って痩せてるから肉も食わなきゃ」
彼の自然な言葉に
「せ、先輩?」
僕はビックリしてしまう。

「だって、ペットショップでも化生の飼い主としても先輩でしょ?
 年も、そうですよね
 大学卒業してから働いてるんなら、25、6歳くらい?」
伺うように聞いてくる彼に
「あの、僕、大学には行ってないんです
 専門学校には1年行ってたけど
 歳は今、23です」
僕はしどろもどろに答える。
バカにされるかな、と思ったけど
「なんだ、俺、21だから、そんなに違わないじゃん
 てか、俺も大学行ってないんだ、お揃いお揃い
 良かったー、しっぽやの受験生達見て、ちょっと引け目に感じててさー」
彼は華やかに笑ってくれた。

「僕、少し引きこもってた時期があったから、高校卒業したのも、出席日数とか本当にギリギリだったんです」
彼の笑顔に後押しされ、つい聞かれてもいないことまでしゃべってしまう。
「マジ?俺も超絶ギリギリで高校卒業してんだ
 あの頃は悪い奴らとツルんでて、ろくに学校行ってなかったからなー
 何だー、俺たち似てるじゃん」
こんなにキレイで明るい人に『似てる』と言われて、僕はさっきよりビックリする。

「浦さんて、優しい人ですね」
僕がため息とともに告げると、彼はまた不思議そうな顔になった。
「優しい?何かよく分かんないけど、浦さんって呼ばれるのシックリこないな、下心丸出しの奴に呼ばれてるみたいでさ
 『ウラ』で良いって
 でも俺は『カズハ先輩』って呼ばせて
 俺のこと欲しがらない優しい先輩出来たの初めてだもん
 って、あれ?高校んとき、俺も先輩達から日野ちゃんと同じ目にあわされてたのか?
 そこまで無理矢理じゃなかったし、小遣い貰ってたから気付かなかった」
よく分からないけど、彼は一人で納得していた。

「あの、ウラ」
僕は恐る恐る呼び捨てで彼に話しかけてみる。
「何?」
ウラはごく自然に返事をしてくれた。
「この店、デザートも美味しいんだ
 ケーキもシェアする?」
僕の提案に
「良いね!肉球ケーキっての気になってたんだよ」
彼はまた、華やかな笑顔で答えてくれるのであった。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ