しっぽや1(ワン)

□不思議な同僚
1ページ/4ページ

side<ARAKI>

大麻生に飼い主が出来た。
彼は白久の古くからの仲間だし、とても真面目で責任感が強く好感が持てる犬なので、俺は素直にそれを喜んでいた。
大麻生の飼い主に初めて事務所で会った時はあまりにキレイな人だったから、新入りの猫の化生かと思ってしまった。
案の定、初対面時にカズハさんは猫だと思って話しかけたらしい。
『カズハさん、最初に会ったとき俺のことも犬だと思ってたもんな』
先走って話しかけなくて良かった、と俺は胸をなで下ろしていた。
しかし、超が付くほど真面目な大麻生が選ぶと思ってた人とは、かけ離れた外見の人であった。
『眼鏡をかけたガリ勉タイプで、大麻生に引けを取らない真面目人間』
俺は勝手にそんな人を飼い主に選ぶんじゃないかと考えていたのだ。

しかし実際の飼い主のウラさんは、何というか…
金色に染めた長髪、着崩した服に複数のアクセサリーを身に着け、見た目が完全に『チャラ男か水商売の人』っぽかった。
と言うか、話口調や態度もそれっぽい。
どんな風に接したらいいか、今一距離感の掴めない不思議な人だった。
日野とは以前からの知り合いみたいなんで、どんな人か聞いてみたら
「チャラ男」
と言う分かり切った返事が返ってきた。
「いや、そりゃ、見れば分かるっていうかさー」
俺は唸ってしまう。
「でも、まあ、真面目なチャラ男?
 通すスジはちゃんと通すぜ、あいつ
 大麻生が選ぶだけのことはあるかな、とは思う」
日野はヘヘッと笑ってみせる。
まだウラさんと、ちゃんと話したことがない俺は
「ふーん、そうなんだ」
と言うしかなかった。




「チーッス」
軽いノックの後にドアが開いて、ウラさんがしっぽや事務所に入ってきた。
今日のウラさんは髪を結んでいてアクセサリーは身に着けておらず、服のセンスも大人しめであった。
それでも元がキレイな人なので、彼の登場で事務所が華やいだ感じがする。

「チェッ、まーたソウちゃん居ないのな、俺が遅れて顔出すといつもこうだ
 働き者なんだから、って、そこが超格好いいんだけど
 つか、黒谷が働かな過ぎなんじゃないの?日野ちゃーん
 勝負するまでもなく、ソウちゃんの方が優秀じゃん」
事務所内を見回したウラさんは、ニヤニヤ笑いながら日野に話しかけてくる。
「責任者不在の事務所とか有り得ないでしょ
 黒谷はここに居るだけで、誰よりも働いてんの」
日野はすました顔でウラさんの言葉を流していた。

「荒木少年、どうよこの日野ちゃんの態度
 外回りしてる白久に代わって、ちょっと言ってやんなよ」
ウラさんは俺に話をふってきた。
「いや、確かに事務所には責任者居ないとマズいかなって
 って、ウラさん、何で俺のことゲンさんみたいに呼ぶんですか」
「だって、ゲンちゃんが『高校生名探偵』だって言ってたし
 高校卒業したら流石に『少年』とか呼べないから、今のうちに呼んでみるのも楽しいかなって
 荒木少年、俺のことはウラって呼べよ
 ガキの頃はこの名前で色々言われたけど、今となっては誇れる名前だからさ
 それに『さん』付けってむず痒い
 格下から『さん』付けされて悦いってるって、三下っぽくて好きじゃねーんだ」
何だかこの人のノリはゲンさんに似ている気がしてきた。

「格下って、ここではウラが一番後輩なんだからな」
日野がビシッと指摘する。
「そっか、ここじゃ俺が一番先輩だ」
そう気が付くと、不思議な気持ちになった。
「でもさ『荒木少年先輩』じゃ長いじゃん」
不満げなウラにの言葉に
「荒木、こいつ『少年』を省く気はないみたいだぜ」
日野が苦笑して俺を見る。
「いやもう、どう呼ばれてもいいかな」
俺も苦笑するしかなかった。

「ウラ、今日はペットショップのバイトがある日だろ?
 こっち来てていいの?」
日野がそう問いかける。
ウラはしっぽやとカズハさんの働くペットショップのバイトを掛け持ちしているのだ。
「今日は客入り悪くてさー、仕事無くなったから早上がりして、そのままこっちに来た
 どうせならソウちゃんと一緒に家に帰りたいなって
 アイスミルクティー用の紅茶も仕込んどきたいし
 紅茶って、水でも出せるの知らなかったぜ
 学がないと損するな」
ウラはため息を付くが、それは学問的な知識と言うよりはお婆ちゃんの知恵袋的な知識だと思った。

「荒木少年、お茶とか補充するもんある?
 言ってくれれば、お使い行くよ?
 ここって喫茶店並の品揃えだから、俺じゃ訳わかんねー」
俺は何となく、事務所のお茶菓子担当みたいになっている。
「そうだね、ちょっと在庫見てみようか」
「あ、俺も足りないもの頼みたい」
結局俺たちは3人で、ゾロゾロと所員控え室に入っていった。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ