しっぽや1(ワン)

□分からないのに惹かれる6
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side<URA>

ソウちゃんは体を許した後も、俺に対する態度が変わらなかった。
相変わらず真面目でどこかズレていて、毎日料理を作ってくれる。
俺を自分の物にしたという尊大な態度をとる素振りはなく、今までと変わらない丁寧な物腰で話しかけてくるし、エッチの時だって許可しなければけっして触れてこようとはしないのだ。
俺達の関係の主導権はあくまでも『俺』と言った、最初の関係のままだった。

俺を買った者がそんな態度をとる事は無かったので、初めはずいぶん驚いた。
金を出したんだから俺に対しては何をやっても許されるといった感じで、所有物のように扱われるのが常だったからだ。
最初に俺を金で買ったのに自分のことを1人の人間として尊重して接してくれるソウちゃんに、俺は益々惹かれていった。
ソウちゃんのことをもっと知りたいと思った。
他人のことをこんなにも気にしたのは初めてかもしれない。

どんな風に育ったのか、どんなことを考えているのか、俺のどこがそんなに好きなのか。
命令すれば、きっと教えてくれるのだろう。
でも俺は、ソウちゃんが自発的に教えてくれるまで待とうと思っていた。
ソウちゃんは俺に何か言いたいことがあるのか、口を開きかけてはつぐんでしまうことが多々あったのだ。
しかしそれは、俺も同じだった。
しかも俺の場合は過去のことに加え、現在のことも言い出せなかった。
金が無くなるので客を取りたいが、ソウちゃん以外とは寝たくないこと。
日野の分と合わせ、ヤバい写真のデータを消去出来ていないこと。
あいつとは完全に手を切りたいこと。
色々相談したくても、何をどう言えばいいのか分からなかった。
正直に告げてソウちゃんに幻滅され、この関係が終わってしまうことを恐れるようになってたのだ。


ある日ソウちゃんがいつにも増して真面目な顔で話しかけてきたときは、ドキリとしてしまった。
『まさか、別れ話?』
平静を装いながらも、俺の胸の内には不安が渦巻いていた。
しかし彼は『自分を番犬として飼って欲しい』と言い出したのだ。
拍子抜けすると同時に、意外な気分を味わっていた。
『ソウちゃんって、そーゆー性癖なんだ』
主従関係を望むようには見えなかったが、思い返せば俺に対しては最初から従順だった。
けれどもどこかズレているソウちゃんなので、きっと俺が考えている性的な関係とは違うのだろう。
『男娼』と『ペット探偵』と言う関係から、『飼い主』と『番犬』と言う関係になるだけだ。
面白そうではあったので、俺はその提案にのることにした。

『犬を飼うなんて、何年ぶりかな』
俺は子供の頃に飼っていた犬を懐かしく思い出してしまう。
俺がソウちゃんを飼うことを了承すると、彼は涙を見せた。
最初にこの部屋に来たときも切ない顔で泣いていた事を思い出し
「ソウちゃん、これくらいでオーバーだなー」
俺は彼の涙を拭ってやった。
泣かないように命令すると彼は真面目な顔で頷いて、少しだけ明るい表情を見せる。
『こーゆー顔してる方が格好いい』
俺は彼の気を紛らわせようと、犬としてのコーディネートを始めてみた。
軽い思いつきでやってみたことだったが、黒い首輪を付けたソウちゃんを鎖で繋ぐ想像をするとドキドキしてくる。
彼の逞しい身体に、それはとても似合いそうであった。

俺が触れているためか、ソウちゃんの身体は服の上からでも反応していることが見て取れるほど張りつめていた。
俺も同じような状態になっている。
力強く抱きしめられながら、早く彼と一つになりたかった。
「俺だけの番犬か
 ソウちゃん、エロいこと思いついたね」
俺が笑うと、彼は頬を染めて恥ずかしそうな笑顔を見せてくれた。

それから俺は一緒にシャワーを浴びて『飼い犬のシャンプー』をしてあげた。
タオルを泡立てて優しく彼を洗うと、身体を震わせて反応する。
こんなサービス、客にはやったことがなかった。
俺にとってソウちゃんは、本当に特別な存在になっていたのだ。
泡を流すと、彼の身体はこれ以上お預けさせるのは可哀想な状態になっていた。
俺自身も、ベッドまで移動するのは我慢出来ない状態であった。

「ソウちゃん、よし」
俺の命令で彼が後ろから貫いてくる。
やっと一つになれた喜びと逞しく動く彼からの刺激に、俺はすぐに上りつめてしまう。
膝をつきそうになる俺を、ソウちゃんは力強く支えてくれた。
彼が側にいてくれる事に安心感を覚え、この手を離したくないと強く思った。

シャワールームから出た俺達は、その後も何度も繋がり合った。
俺が彼の名前を呼ぶと、彼も名前を呼んでくれる。
「ウラ…お慕いしております」
少し古風な告白がソウちゃんらしくて、真摯な想いが泣きたいほど嬉しかった。

欲望の果てに訪れる穏やかな時、腕に抱かれて眠りに落ちる前に
『また、言い出せなかった…』
そんな後悔が胸を過(よ)ぎるものの、彼がくれる安心感に満たされて意識は眠りに落ちていくのであった。
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