しっぽや1(ワン)

□日野の夏休み
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俺はしばらく黒谷を胸に抱き、その髪を優しく撫で続けていた。
やがて、密着して触れ合っているその状態にドキドキしてくる。
俺は彼の顔を上向かせると、その唇にキスをした。
軽く触れ合うキスから、すぐに舌を絡め合う濃厚な口付けに変化する。
「ん…黒谷…」
キスの合間に愛しい飼い犬の名を呼ぶと
「もっと、イチャイチャしましょうか」
黒谷が艶めいた瞳で問いかけてきた。
「うん、もっと、イチャイチャしよう」
俺は上がっていく息を押さえ、黒谷に抱きついた。
彼は俺を抱えてベッドまで運んでくれる。
ベッドでも口付けを交わしあう俺たちは、服の上からでもはっきり分かるほどお互いを欲していた。

黒谷の唇が俺のノドから肩に移動する。
着ていたTシャツは、彼の手によって脱がされていた。
肩から移動した黒谷の唇が、胸の突起を刺激する。
舌を絡ませ吸い上げられ、もう片方の突起を指で刺激されると、彼が欲しくてたまらなくなった。
「黒谷…して…」
耐えきれずにそう呟くと、彼は俺のGパンを脱がせ始めた。
スムーズに脱げるよう、俺も腰を浮かせて協力する。
『手慣れてきたな』と思うと羞恥心が湧いてくるが、それよりも早く彼と一つになりたかった。
自らも服を脱ぎ捨てた黒谷が、俺に覆い被さってくる。
俺たちは唇を合わせながら繋がった。
黒谷が逞しく動くたびに、合わせた唇から甘い悲鳴が漏れてしまう。
俺の想いを全て飲み込むように、黒谷が舌を絡ませてくる。

「日野…愛してます」
重ねた唇から黒谷が熱く語りかけてくれるので
「あん…俺も…愛してる…黒谷、ああ…」
俺も喘ぎと共に愛の言葉を囁いた。
やがて、それすらも考えられなくなるような強烈な快感に襲われて、俺たちは想いを解放し合うのであった。


行為の後、黒谷に抱かれて過ごす至福の時間。
いつも時間に追われた逢瀬しかできなかった和銅の時と比べ、今はとても幸せなのだと実感できた。
『あの時出来なかったことを、俺と黒谷はやり直そうとしてるんだな』
ふと、そんな考えが頭をよぎった。
やり直したくても出来ないこともある、でも、出来ることもあるんだ。
完全に同じ事をやり直せなくても心が満たされる、黒谷と居るといつもそんな前向きな気持ちになれた。

『やり直す』
その言葉で、俺の脳裏に閃くものがあった。
単なる自己満足にすぎないことは分かっていたが、俺はそれをやってみたくなった。
『ついでに、あいつらにも釘刺したいし』
俺はついつい口角が上がってしまう。
「黒谷、明日は一緒に出かけてもらって良い?」
黒谷の顔を上からのぞき込むようにして問いかけると
「はい、飼い主のお供を出来るのは何よりの喜びです」
彼はニッコリ笑って答えてくれる。
「よし、じゃあ、今日は心おきなく1日中イチャイチャしよう」
黒谷の答えに満足した俺が断言すると
「飼い主と触れ合えるのもまた、無上の喜びです」
彼は愛おしそうに俺の頬を撫でた。

暫く見つめ合った俺たちは唇を合わせる。
「もう一回、して」
「はい、貴方が望むなら何度でも」
俺たちは再び、貪るように求め合い繋がりあった。
お互いの存在を確認しあえるその行為が、共にいる安心感を与えてくれる。

俺の宣言通り、俺たちはその日、1日中触れ合いながらイチャイチャと甘い時間を過ごすのであった。



お盆休み2日目
黒谷が作ってくれた朝ご飯を食べながら
「今日は、学校としっぽやに付き合って欲しいんだ」
俺は昨日の思いつきを黒谷に説明する。
「お供いたします」
彼は素直に頷いてくれた。
「で、服装なんだけど、ちょっと強面に見える格好にして欲しいんだよね
 黒谷は空と違って格好良いから難しいけど
 何を着ても俳優みたいに見えるから
 空ならアロハシャツとグラサンで、簡単にチンピラっぽく見えるんだけどさ」
「頑張ります」
俺の言葉に、黒谷は神妙な顔で答えてくれた。

胸元を開けた柄物のシャツにゴツいシルバーアクセ、その上に着崩した黒スーツ、髪をワイルドに乱れさせ、グラサンをかけると、やっと黒谷の容貌が剣呑(けんのん)な風合いを帯びてきた。
『空にここまでやらせたら、連れ歩ける範囲を超えてるな』
俺は心の中で苦笑する。
「この格好で、おかしくありませんか?」
慣れない格好をしているせいか、黒谷が髪をいじりながらオズオズと聞いてくるので
「大丈夫、格好いいよ
 でも、俺から離れて歩いちゃダメだからね」
俺はそう言ってキスをして彼を安心させた。
意味深に見えるようアタッシュケースを持たせ(中身はエコバッグ)、俺たちは影森マンションから学校に向かう。

黒谷をみる通行人の目は、両極端だった。
微笑みながら目で追ってくる者、目を合わせないようにそそくさと足早に離れようとする者。
前者は犬を飼っているか犬好きな者、後者は犬が嫌いな者で間違いなさそうだ。

『いける!』
俺は心の中で確信を覚えていた。
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