しっぽや1(ワン)

□睦(むつ)まじい満月
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side<ARAKI>

しっぽや事務所で白久や黒谷からジョンの話を聞いた俺は、思わず吐息をついてしまった。
「前の飼い主の血縁者がみつかることなんて、あるんだ」
俺の言葉に
「すごいレアケースなんじゃね?」
一緒に聞いていた日野が神妙な顔で腕を組ん首をひねる。
「いや、お前に言われても」
俺は思わず苦笑してしまう。
日野は黒谷の以前の飼い主の生まれ変わりなのだ。
特殊性で言えば、そちらの方が断然上だと思われた。

「まあ、そうだけどさ」
そう言いながら日野はチラチラと俺の顔を見ている。
それで俺も、日野が何を考えているか察しが付いた。
「俺は、白久の元の飼い主とは血縁関係、無いぜ
 確かに記憶の転写を見たとき、顔はちょっと似てるかな、とか自分でも思ったけど
 若くして亡くなった親戚の話なんて、聞いたことないし」
「そっか」
日野は複雑な顔をみせる。
日野は白久の元飼い主の幽霊(?)を見たことがあるらしい。
その時、俺に顔が似ていると思ったそうだ。
「白久って、荒木みたいな顔が好きなのかな?」
日野が躊躇(ためら)いがちにそんなことを口にしたので、俺はドキリとしてしまう。
『俺、この顔じゃなかったら白久に選んでもらえなかった?
 年取ってもっとオジサンになったら、心が離れちゃう事もあり?』
そんな考えが頭をもたげ、不安に駆られてしまった。

「そんなことはありません
 私は荒木が荒木だから好きなのです」
白久はキッパリと宣言し、俺を抱きしめてくれた。
「以前ジョンに岩月様のことを『血縁者だから大事な方だと思ったのか』と聞いたことがあります
 けれどもジョンはそうではないと答えました
 その時の私にはよくわからなかったのですが、今ならわかります
 荒木という存在が、私を引きつけてやまないのですよ」
白久の告白に、俺は照れくさくも嬉しい気持ちでいっぱいになる。
「うん」
俺は幸せを感じながら、白久に抱きついた。

白久に対抗するように、黒谷も日野を抱きしめていた。
「日野だって、和銅とは違う顔だけど僕には関係ない
 転生と言っても、魂は和銅よりうんと強い輝きを放っているよ
 試練を乗り越えた者の強く輝く魂、それに惹かれ守りたいと感じるんだ」
「黒谷がいてくれるから、強くなれるんだよ」
日野も黒谷に抱きついて、満足そうな笑顔を見せた。

抱きしめてくれる白久の白い服を見て、俺はふとそれに思い至った。
「もしかしてここの化生達の服って、岩月さんのクリーニング店で洗ってもらってるの?」
「はい、ですから白い服が多い私や長瀞はジョンに怒られっぱなしなのですよ
 『汚しすぎ』だって」
白久は舌を出してみせる。
「ジョンに簡単な染み抜きは教わりましたが、とてもそれでは間に合わなくて
 台風の日の泥跳ねも、怒られましたねー
 前から天気は分かってるんだから、こんな日は休業しろ、じゃなきゃジーンズで仕事しろ、と」
苦笑する白久に
「でも、台風の時はゲンさんの店が大変だったし、今日だって急な雨だったからしかたないよね」
俺はそう言ってみた。
「それに俺、やっぱり白久は白い服が一番似合うと思う」
モジモジ伝えると、白久は嬉しそうに笑ってそっとキスをしてくれた。

「何にせよ、ジョンのおかげで、僕達きちんとした服装を保てるからありがたいよ
 普通のクリーニング店にどうやって頼んだらいいかわからないし、ドロドロの服なんて持って行けないからさ
 スーツ着てると『ペット探偵』なんて怪しい職業でも好意的に見てもらえるけど、汚すたびに買い換えてられないもんね」
黒谷が朗らかに笑った。
「そりゃ、化生って格好いいしキレイだから、スーツ着てると迫力増すもんな
 いや、空は迫力出過ぎて殺し屋みたいだけど」
「確かに!」
日野の言葉に、俺はつい吹き出してしまった。

「でも、あのドロドロの服、店まで持って行くの大変じゃない?」
俺は白久にそう訪ねてみた。
ジョンの話を聞く限りでは、そのお店は事務所の近くには無さそうだったからだ。
「大荷物で電車で移動するの、厄介だよな」
日野も顔をしかめている。
「いえ週に2回、火曜と金曜のしっぽや業務開始前に、車で事務所まで配達に来てくれるのです」
「影森マンションにも、移動クリーニング店として寄ってくれるんだ
 大手チェーン店より値段が高いけど、腕が良いからそれなりに繁盛してるみたいだね
 カズハ君の家も利用していたらしくて、化生の関係者だと聞いて驚いてたよ」
白久と黒谷の答えで、俺と日野は納得する。
「平日の朝に来るから、俺達ジョンに会ったことないんだ」

俺達はジョンと岩月さんに会ってみたくなった。
予備校の日程を確認すると、次の月、火は俺も日野も授業予定がなかったのでその旨、白久に伝えてみる。
「それでは次の火曜の朝に少し時間をとってもらえるよう、ジョンに連絡しておきましょう」
白久は笑って頷いてくれた。

こうして俺は、新しい仲間のジョンと岩月さんに会うことになったのであった。
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