しっぽや1(ワン)

□共に走る喜び
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家を出る前に食べたおにぎりやバナナはとっくに消化してしまったのか、腹ぺこの俺は黒谷と一緒にガッツリと朝定をたいらげた。
マンションへの帰り道
「流石に暑くなってきたなー」
俺は昇りきった日を仰ぎ見る。
「本格的に暑くなる前に戻ってこれて、良かったですね」
黒谷は首にかけているタオルで汗を拭っていた。
「うん、熱中症にならないよう、水分と塩分補給に気を付けなきゃね
 捜索に出る化生達にも言っといて
 今は、昔とは暑さの度合いが違うからさ」
化生は体質的には人間に近くなるので、俺はそう注意する。
「はい、しつけ教室の開始時刻の変更も考えてます
 色々と、変化させていかねばならないことが出てくるのですね
 飼い主がいると、勉強になります
 これがゲンの言っていた『新しい風』ということでしょうか」
「そんな大げさなことじゃないけどさ」
俺は照れながらも、黒谷と共にしっぽやの未来を考えることが出来て深い喜びを感じていた。


マンションに帰り着いた俺達は、シャワーで汗を流してサッパリとする。
服を着る前に脱衣所で黒谷をマジマジと見た俺は
「少し、焼けちゃったね
 日焼け止め塗れば良かったかな」
ランウェアを脱いだ黒谷の首元が、赤くなっていることに気が付いた。
「肌が焼けるなんて、今まで気にしたこともありませんでした
 日野も少し赤くなってますよ、大丈夫ですか?」
黒谷が俺の首元を優しく撫でてくれた。
黒谷に触られるだけで、俺の体にゾクリとした感覚が走った。
彼に触れたくて、触れてもらいたくてたまらなくなる。
「うん、大丈夫」
俺は撫でてくれた黒谷の手を掴むと、その手を引き寄せ彼の指にキスをした。
今度は黒谷がビクリと体を震わせた。

俺は彼の指にそのまま舌を這わせ
「しっぽやに行く前に、する時間ある?」
そう聞いてみる。
「今日は重役出勤ですからね、昼過ぎの出勤でかまわないでしょう」
黒谷は俺の耳元で囁くように答え、ピッタリと寄り添って固く熱くなっている自身を押しつけてきた。
俺自身も、黒谷と同じように反応している。

俺達は熱く見つめ合い、熱く唇を重ねた。
それから、ベッドで熱く繋がり合った。
室内はエアコンを利かせていたが、求め合う俺達はたちまち体に熱を帯びていく。
歓喜の波に飲み込まれ、どれだけ想いを解放しても相手に対する愛で体が熱くなっていった。

欲望が冷めるまで何度も繋がった俺達は、再び汗だくになってしまう。
「しっぽや行く前に、もう1回シャワー浴びよ」
俺は黒谷の腕に抱かれながら、笑ってそう言った。
「そうですね、日野、お疲れではないですか?
 今日は休みにしても良いですよ」
黒谷が労るように髪を撫でてくれる。
「大丈夫だよ、俺、捜索に出る訳じゃないし
 黒谷は?疲れてない?」
黒谷の顔をのぞき込んで聞くと
「僕も、よほど忙しくなければ捜索には出ませんからね」
彼は悪戯っぽい顔で答えた。
俺達は見つめ合って笑ってしまった。

それからシャワーを浴び直し黒谷の部屋に置いてある服に着替えると、しっぽやに出勤する。
「一緒に住めたら、いつもこうやって仕事に行けるね」
俺はまだまだ先の未来を思い、幸せに包まれた。
「その前に、色々やることあるけどさ
 まずは受験勉強と大会に向けての調整かな」
「僕で手伝えることがあったら、何でも言ってくださいね」
そう言ってくれる黒谷の気遣いが嬉しかった。


「うーん、朝定ガッツリ食べたけど、またお腹空いてきた
 運動したからかな」
俺がそう言うと
「しっぽやに行く前に、何か食べますか?」
黒谷はそう聞いてくれる。
「でももう昼過ぎてるし、流石にこれ以上遅くなるのもなー
 よし、食パンでも買っていって、向こうで焼いて食おう
 ハムとか出来合いのサラダとか買えば、トーストサンドになるし
 荒木、ランチに行っちゃったかな
 一応多めに買って行こうか」
「そうですね、この時期は食中毒が怖いので弁当を作ってこない事もあるから
 余ったら冷蔵庫に入れておけば、誰かしら食べますよ
 以前はそこまで気を使うことは無かったんですが、やはり時代が違うと言うやつですかね
 多分、大部分を空が食べるでしょう」
黒谷はクスクス笑っている。
「じゃ、決まり」
俺達はスーパーに寄ってパンやハム、出来合いのサラダやカット野菜を買い込み大荷物を持ってしっぽやに向かうのであった。
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