しっぽや1(ワン)

□淡い初恋?
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ピザを食べながら
「今日は依頼が少なかったら、白久と荒木は早帰りしなよ
 その代わり、明日は俺と黒谷、重役出勤でいいかな」
日野が照れくさそうに聞いてくる。
「俺達はかまわないよ」
早く帰れれば白久と2人で居られる時間が増えるので、俺的には大歓迎な提案だった。
「明日は朝、少し黒谷とランニングしようかと思ってるんだ
 日中は暑いからさ、まだ涼しいうちにって
 あ、荒木も一緒に走ってみる?」
日野に聞かれ、俺は慌てて首を振る。
「いや、俺は遠慮しとく
 日野と黒谷が来るまで、俺達で頑張ろうな」
白久にそう言葉をかけると
「はい、荒木のために頑張ります」
彼は笑顔で答えてくれた。

ランチの後、ミックス犬の捜索依頼が1件入ってきた。
場所が近かったため、白久はすぐに発見して戻ってくる。
ほとんど同じタイミングでしつけ教室を終えた空が帰って来たため、後は彼に任せて俺と白久は上がらせてもらうことになった。
「じゃあ、また明日
 お疲れさまでした」
皆とそんな挨拶を交わし白久と一緒に事務所を出たのは、まだ夕方には早い時間であった。

「せっかくなので、どこかに出かけますか」
白久が嬉しそうに聞いてくる。
「うーん、でもその前に、シャワー浴びて着替えたいかも」
制服で夜まで出歩くのも気が引けるので、俺達は影森マンションに帰ることにした。


部屋に帰りシャワーを浴びてTシャツに着替えると、サッパリとした気分になる。
同じくシャワーを浴びた白久は、白いサマーセーターに着替えていた。
Vネックの首元を見ながら
『赤と黒、どっちの首輪が映えるかな』
俺はそんなことを考えてしまう。
俺が見つめていることに気が付いた白久が、伺うように顔を寄せてくる。
小首を傾げる白久に
「その服なら、赤い首輪が似合いそうだなって」
俺はヘヘッと笑ってみせた。
白久は微笑んで、机の引き出しから以前に俺がプレゼントした赤い首輪を取り出すと首に付けてみせてくれた。

「似合いますか?」
はにかんだ顔で聞いてくる白久に
「うん、格好いい」
俺はそう答えてキスをする。
俺達は唇を合わせながら、しっかりと抱き合った。
2人でこの部屋に居られる時間が、とても貴重な物に感じられる。
今月も何度か泊まりに来ていたのに、何ヶ月も離れていたような錯覚を覚えてしまう。
「白久…して」
会えない時間を埋めるように、俺達は何度も繋がり合った。
白久と一つになるたびに、深い満足感に満たされる。
想いを解放した後、白久の腕の中でゆっくりと過ごす時間は俺にとって至福の時であった。

白久が、優しく俺の髪を撫でてくれる。
俺はそれが心地よくて、彼の胸に頬をすり寄せた。
「どこにも出かけなくても、白久とこうして一緒にいられるだけで幸せ」
「私もです」
白久は俺の髪にそっとキスをしてくれた。
「白久も、俺の家に来たい…?
 俺の親と、ご飯食べたい?」
昼に聞いた空とカズハさんの話が気になって、俺はそう問いかけてみる。
「そう出来れば嬉しいですが、荒木がこうして部屋に来てくださるだけで十分幸せです」
白久は、そんな健気な返事をしてくれた。
「親父がもうちょっと、子離れしてくれれば良いんだけどさ」
俺がため息をつくと
「お父様は、荒木のことを大事に思っているのですよ
 でも、その気持ちは私だって負けません」
クスリと笑いながらそんなことを言ってくれる。
「うん」
我ながら単純だけど、俺はその言葉がとても嬉しかった。
「俺も、白久のこと大事に思ってる」
そう言って、その逞しい胸にキスをした。

俺達はそれから少しまどろんで、夕飯を食べに外に出る。
昼の暑さが落ち着いて、涼しい風が吹いていた。
「熱帯夜になるのは、まだ先だね」
星を見ながら俺が言うと
「熱帯夜でも、夏の散歩は夜の方が犬には楽なんです
 今の地面はアスファルトだらけですからね
 アスファルトに近い場所を歩く犬には、日中は本当に暑くて
 下手をすると、肉球を火傷してしまいますし
 飼い主の生活時間の関係でしかたないこともありますが、日が落ちきってから散歩に連れて行ってもらえるとありがたいです
 もしくは、アスファルトが熱くなる前の朝の時間とか
 しつけ教室で、空からも飼い主に伝えてもらっています」
白久はそう言葉を続けた。
「そっか、ダックスとか足短いから、顔がアスファルトに近いもんね
 足が長い犬でも、人よりは顔がアスファルトに近いし
 夏は、散歩するのも大変なんだ」
猫としか暮らしたことのない俺には、その言葉は考えさせられるものであった。

「けれども今、荒木と夜の散歩をしている私は幸せです」
白久が幸せそうに微笑むので
「日野みたいに早朝一緒にランニング、とかは無理だけどさ
 ご飯食べたら、今夜は遠回りして帰ろうか」
俺はそう提案してみる。
「はい」

その後、俺達は週末の夜の散歩を十分楽しんで帰るのであった。
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