しっぽや1(ワン)

□愛する存在
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side<ARAKI>

土曜日、誕生日が近いのでプレゼント休みの日野に代わり、そぼ降る雨の中、俺は1人でしっぽやに向かっていた。
『今日のランチ何だろ』
今日は黒谷も休みで白久が所長代理をしているから、いつものように外に食べに行かずお弁当を作ってくれると言っていたのだ。
『白久の作るエビとアボカドのサンドイッチ、美味しいんだよな
 炊き込みご飯とか鶏レバ煮たのも良いな』
何だか、給食を楽しみにしている小学生みたいな気分になってくる。
しっぽや事務所が入っているビルの階段で傘を畳むと、俺はウキウキと階段を上っていった。

コンコン

ノックして扉を開ける。
「荒木」
満面の笑みで俺を迎えてくれる白久が、可愛くて仕方がなかった。
「白久、どう?今日は依頼来てる?」
そう尋ねる俺に
「午前中は犬の捜索が1件きただけです
 雨ですから猫は外に出たがらないし
 あ、いえ、出たがる猫もいますけどね」
白久はクスクス笑っている。
「梅雨が明けるまでしつけ教室もお休みなので、空が暇を持て余してますよ」
白久の言葉に
「今日、唯一来た仕事をこなしたの、俺なんだけど
 チョー忙しいんですけどー」
空が控え室から顔を覗かせ、二ヤッと笑った。
「荒木も白久もこっち来なよ、一緒にランチしようって待ってたんだぜ
 今日は開店休業だ」
そのまま手招きしてくれる。
俺と白久は顔を見合わせ微笑んで、一緒に控え室に入っていった。

テーブルの上は、和洋折衷な持ち寄りパーティー状態になっている。
「わ、豪華」
驚く俺に
「梅雨の時季はヒマなので、お昼くらい派手にしようと思いまして
 ゆっくりお昼を食べていられますからね」
長瀞さんがタッパーの蓋を開けて、微笑んでそう言った。
「白久、これ焼けば良いの?」
羽生がマフィンの入った袋を持ち上げると
「半分に割ってから焼いてください」
冷蔵庫の中のものを取り出しながら、白久が答えた。
「卵スープとワカメスープ作るから、適当に選んでくれ」
空がインスタントスープを作り始める。
「おにぎりチンするよ」
明戸はレンジを使っていた。
「取り分け皿とお箸、スプーンもあった方が良いですね」
皆野は食器類を出している。
化生達があまりにも手際よく動いているので、俺はそれをぼんやり見ているしかない状況であった。

「あっ」
ひろせが顔を輝かせながら控え室から出ていったので、俺はノックが鳴る前に誰が来たかを察知する。
すぐにノックの音がして
「こんちわー」
タケぽんの声が聞こえてきた。
「タケシ、今からランチなんです
 控え室で一緒に食べましょう、僕、パンを器にしてグラタン作ってきたんですよ」
「美味そう!お腹ペコペコだ」
そんな会話を交わしながら、2人が控え室に入ってきた。
「スゲー、豪華!」
タケぽんが俺と同じことを言うので、ちょっと笑ってしまった。

さすがに全員ソファーに座りきれないから、パイプ椅を出して体の大きな空とタケぽんがそこに座りランチ開始となった。
「いただきまーす!」
皆でワイワイ食べるご飯は、美味しさがアップする。
「荒木、色々とパンに合いそうな具を作ってきたのでマフィンにのせて食べてみてください」
白久が差し出してくれたマフィンに
「やっぱ、最初はこれだよね」
俺はエビとアボカドのサラダをのせる。
「だと思いました」
白久は嬉しそうに微笑んだ。
「こちらはお刺身用のマグロを叩いて、タルタルっぽく味を付けてみたのです
 レタスの上にのせてから、パンにのせると良いですよ
 こちらはオーソドックスにゆで卵とマヨネーズです
 ツナサラダ、ポテトサラダもありますよ」
白久が色々説明してくれるし、小さなおにぎり、煮物、揚げ物、ベーコンや卵で野菜を巻いた焼き物、ひろせのパングラタン等々、美味しそうなものばかりで目移りしてしまう。

「スーパーで売ってるマグロのたたきは、油で練ってあるものがほとんどですから
 柵をたたいたものの方が、美味しいですね」
長瀞さんがマグロのタルタル風を食べながら感心した顔を見せた。
「美味しい!これ、生マグロでしょ
 解凍だと何か味が水っぽいんだよね
 でも、解凍マグロもぶつ切りにしてトロロ芋とかメカブと和(あ)えると、サトシ、美味しいって言ってくれるの」
羽生が何気にノロケた発言をする。
「解凍もの、柵の表面だけフライパンでさっと焼いて冷やしてからスライスすると、ちょっと味が凝縮しますよ」
ひろせがエヘヘッと笑った。
「トロびんちょうと呼ばれるびんちょうマグロだと、解凍でも脂がのってますよ
 養殖ミナミマグロの解凍も味が濃いし
 解凍養殖本マグロの中トロも美味しいですね」
「まあ、最高なのは養殖生本マグロだけどな」
双子が頷きあっている。

「猫ってのは本当にマグロ好きだね
 キャットフードがマグロベースばっかなのも頷けるぜ
 俺は肉の方が良いけどな」
空が唐揚げを口にしながら、少し呆れた顔を見せていた。
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