しっぽや1(ワン)

□ちみ学生奮闘記
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side〈ARAKI〉

今日で期末試験が終わり、明日から試験休みが始まる。
しっぽやでのバイトは明日からで、今日は俺も日野も休みであった。
早い時間に学校から帰れるし翌日の試験勉強をしなくて良いので、俺は少しハイになっていた。
「タケぽんに付き合って先月は控え室で勉強してたから、今回の期末、けっこーいけたかも」
クスクスと、意味もなく笑いが出てきてしまう。
「うん、俺もそんな感じ」
一緒に駅に向かう日野も笑っている。
「ちぇ、そんなこと言って、お前いつも点数いいじゃん」
俺は少しムクレてみせたが
「何はともあれ、これからの休みに乾杯しようぜ」
すぐに機嫌を直して歩き始めた。

これから日野は、俺の家に泊まりに来る。
俺が泊まりに行くのはうるさく言う親父だけど、友達が泊まりに来るのはかまわないらしく、やかましく言われないのだ。
親父は自分より背の低い日野のことを気に入っているようで、日野が来るとお菓子や飲み物を持って何かと部屋に来たがるのは少々ウザかった。

「親父さん帰ってくるの遅いんだし、ちょっとくらい良いじゃん
 変な奴と付き合ってないか、心配なんだろ」
親父が顔を出したがることを、日野は特に気にしていないらしい。
「前に泊まりに行ったとき、シュークリーム沢山持ってきてくれたじゃん
 あれ、美味かったー」
日野は舌なめずりをしている。
「今日も帰りにケーキでも買うか、とか言ってたから、何か持ってきてくれるよ」
「やったー」
俺たちはそんなことを話し合いながら、帰路についていた。
帰る途中のスーパーで、昼ご飯用の食料やお菓子を色々と買い込んだ。
これから俺の部屋で作戦会議をするのだ。


家に帰るとお湯を沸かしてカップ麺を作ったり、唐揚げやシュウマイや焼き鳥、オニギリを温めたりと手際よく動いていく。
「こーゆーことするの、馴れたよな
 俺、前はお茶すら淹れたこと無かったもん」
「お前、甘やかされてるんだな
 俺は、婆ちゃんの手伝いちゃんとしてたぞ」
日野は少し誇らしそうな顔になる。
「俺だって、今はたまに食器とか洗ってるよ
 生活能力0じゃ格好悪いって、化生達見てると思うからさ」
「うん、皆、人間らしい生活をしようと人の真似して頑張ってるもんな」
俺たちは少ししみじみとしてしまう。
しかし、出来上がった物を見ると
「これ、野菜が足りないって長瀞さんに怒られるメニューだ…」
お盆の上は肉と炭水化物で占められていた。
申し訳程度に、カップ麺に野菜が入っている。
「大丈夫、こんな時のために婆ちゃんにこれを持たされてきた!」
日野が取り出した大きなタッパーの中には、根菜の煮物とほうれん草のお浸しが詰まっていた。
「流石、俺たちの行動、お見通しだ」
一瞬、日野のお祖母さんとゲンさんを気遣う長瀞さんの姿がダブって脳裏によみがえった…

俺の部屋のテーブルに食料を広げ、コーラで試験休みに乾杯する。
それらを適当に食べながら俺たちは議題に入った。
それは『ホワイトデーのお返しについて』である。
「バレンタインにあんな可愛くて美味しいプレゼント貰ったんだから、ちゃんとお返ししたいよなー」
日野の言葉に俺は大きく頷いた。
バレンタイン前にタケぽんのため頑張るひろせを見ていたのに、俺は自分が白久に何かをあげる、と言うことに思い至らなかったのだ。

「バレンタインって言うと『チョコ』
 犬にチョコは厳禁だ、って頭があったからかな
 全然意識してなかったよ」
俺がため息を付くと
「暫くひろせのケーキの試食してたから、チョコ食う気にならなかったし
 買うにしてもあの時期のチョコ売場とか、男には近寄りにくいだろ」
日野も腕を組んで難しい顔をする。

「まあ、急遽お泊まりにして、ベタなプレゼント返し出来たけどさ」
俺はバレンタインの夜のことを思い出して、少しニヤケてしまった。
「それは…俺もそうだけどな」
日野は顔を赤らめながら頷いた。
日野も黒谷と甘い夜を過ごしたようだ。
「今月も14日は泊まりに行くけど、また同じじゃプレゼントとしてどうなのかと思ってさ」
白久は喜んでくれるだろうが、俺もあのシェパードパイのように何か思い出が詰まったプレゼントをしたかった。
「かといって、俺、料理とか全然出来ないし…
 お前は?お祖母さんに教わって何か作れない?」
俺の問いかけに
「カレーとかチャーハンくらいは作れるけど
 でも、『プレゼント』って料理じゃないだろ、それ」
日野は苦笑して答えた。
「思い出も何もないもんなー」
思わず、俺も苦笑する。

白久と黒谷が用意してくれた物は美味しくて、俺達だけの思い出があったのが嬉しかったのだ。
「せめて、俺達にしか出来ない、とか、俺達らしいプレゼントみたいな物を用意したいよな」
「うん」
日野は俺の言葉に真剣な顔で頷いた。
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