しっぽや1(ワン)

□デカワンコ奮闘記
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side〈SHIROKU〉

しっぽや業務終了後、私は黒谷と一緒にファミレスに夕飯を食べに来ていた。
私も黒谷もすっかりファミレスに馴れて、食後にドリンクバーでお茶を楽しんでいる。
「黒豆のお茶というのも、香ばしくて美味しいですね
 でも1袋買うと多いので、自分ではなかなか買う気にならなくて」
「ドリバだと色んなお茶を飲み比べられて、良いよね
 飲んでみて気に入ったら、自分で買ってみれば良いんだしさ
 まあ、同じお茶でもメーカーによって、味が違うけどね」
そんなことを話し合いながら、私と黒谷はしげしげとメニューを眺めていた。
もう食事は済んでいるのだが、デザートメニューを見ながら作戦会議をしているのだ。

「バレンタインに、日野にチョコケーキを焼こうと思ってたけど
 さすがに飽きてきてるよね
 長瀞に教わって、僕もクッキングパッド先生の使い方覚えて簡単なレシピ見つけたんだけどさ
 シロもそうだろ?」
苦笑混じりの黒谷に問われ、私も苦笑を返す。

「そうなんですよね」
『バレンタインデー』というイベントがあることは知っていたのだが、飼い主がいないときは気にしたこともなかった。
この時期は、買い物先でやたらとチョコが目に付くなという認識しかもってなかったのだ。
しかし今は、愛しい飼い主がいる。
『好きな人にチョコを贈る日だ』となると、荒木にチョコをあげて喜んでもらいたかった。
黒谷も私と同じ気持ちのようだ。
「今は『友チョコ』とか、友達同士でプレゼントしあう事も多いんだって
 なら、飼い犬が飼い主にプレゼントしたっていいよね」
そんな黒谷の言葉に頷きながら
「でも、荒木も日野様も、今はチョコ、喜ばないかも」
私は考え込んでしまう。

新入りの化生ひろせが、飼って欲しいと思っている方に食べていただきたいと、連日のようにクラシックショコラを焼いて事務所に試作品を持ってきているのだ。
このところ、事務所のお茶の時間はクラシックショコラとミルクティーが定番だった。
荒木も日野様もバイトの日は毎回それを食べている。
「ひろせのクラシックショコラ、毎回風味や味、食感が違うとは言ってもさ」
「ベースは同じチョコレートですから
 この状態でチョコレート系の物をプレゼントしても…」
「クドいよね」
私と黒谷は何度目になるかわからないため息を付いた。
ひろせのことは応援したいから試食するのはかまわないのだけれど
「ちょっと、タイミングが悪かったですね」
「だね」
私たちは顔を見合わせて、また苦笑する。

そこで、チョコケーキに代わるデザートはないかと、夕飯ついでにファミレスのメニューを見に来たのであった。
「このフォンダンショコラって良いかなー、と思ってたんだけどさ
 冬の定番みたいなもんだって日野が言ってたから」
「荒木もそう言っていました
 せっかくなので、バレンタインに焼いてみようかと思っていたのですが
 これも、チョコですからねー」
私と黒谷は、メニューに視線を落とした。

「アップルパイも良さそうだけど…
 リンゴ狩りで採ってきたリンゴがもう無いからさ」
「ゲン様が言っていたように、あれは思い出込みの物の方が美味しい気がしますよね」
「バレンタインに餡蜜ってのも何だな、と思うし」
「かといって、パフェやサンデーもちょっと…」
デザートメニューの選択肢は、どんどん無くなっていく。
「パンケーキかチーズケーキに、ジャムやチョコでハートでも描く?」
「そうですねぇ…
 でもそれなら、以前ドッグカフェで食べた肉球ケーキの方が私達らしくて喜んでもらえるかも」
私は夏休みに荒木と食べたケーキを思い出していた。

「僕達らしさ…」
黒谷は私の言葉で何やら考え込んでいる。
「うん、チョコやケーキに拘らないで、僕達らしいプレゼントの方が良い気がしてきた
 それに、甘いものじゃない方が、今は良さそうだし
 ちょっと、食事メニューを見直して考えてみようか」
黒谷の提案は悪くないものであり、私に異存はなかった。

「ハンバーグで肉球を作るとか?
 犬の形っぽい方がいいかな」
「それなら、おにぎりやコロッケでも出来そうですね
 カレーとかピザでも何か出来ないですかね」
「パスタとかうどん、麺ものは無理そうか
 サラダも厳しいね」
今度は食事メニューを見ながら案を出し合っていくが、どうにもしっくりくる物がなかった。

「何というか、食事メニューだと重い気がするなー
 僕としてはお茶の時間に気軽に楽しめたら、と思ってたから」
「私もそう思ってました
 フォンダンショコラを焼こうと思っていたからですかね」
「お茶の時間で甘くないもの…
 サンドイッチのハムをハートで型抜きする?」
ヤケクソのように言う黒谷に
「挟んでしまったら、形が見えませんよ」
私は少し笑ってしまった。
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