しっぽや1(ワン)

□クリスマスパーティー
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ピンポーン

ゲンさんの部屋のチャイムを鳴らす。
すぐに
「メリークリスマス!一番乗りだな」
笑顔のゲンさんが出迎えてくれた。
「オードブル、持ってきましたよ
 キッチン借ります」
俺がスーパーの袋を掲げると
「若人のオーソドックス、楽しみにしてるぜ」
ゲンさんが笑顔を見せた。

キッチンでは、長瀞さんがオーブンで何かを温めている。
「オジサンの時代のオーソドックスチキンは、『肉屋の鳥モモ』なのさ
 温め直すだけだから、ナガトも楽ちん」
ゲンさんがグラスを用意しながらウインクして見せた。
すぐに他のメンバーもやってきて、キッチンが込み合ってくる。
一足先に、俺と白久はオードブルの皿を持ってリビングに移動した。

リビングのテーブルでは、中川先生と羽生が飲み物を広げている。
俺に気が付いた中川先生が
「野上と寄居用に、これ買ってきてやったぞ!
 オーソドックスだろ?」
そう言ってシャンメリーを何本も手渡してくれた。
アニメの絵が描いてある袋に入ったそれを手に
「…先生、これ、思いっきり子供用じゃん
 そりゃ、子供の時は飲んでたけど、小学生で卒業しましたよ
 ソフトドリンクなら、普通にコーラとかで良いのに」
俺は呆れた顔をして見せた。
しかし
「荒木が飲んでいたもの?
 私も飲んでみたいです」
白久が顔を輝かせて手元をのぞき込むので
「あ、じゃあ、乾杯はこれにしよう」
俺は顔がニヤケてしまった。

トースターで温めたパンが山盛りになっている皿を手に、日野がリビングにやってくる。
「あれ、今年のシャンメリー、妖怪ニャンコの絵なんだ
 去年はポケットネズミだったのに
 人気は移り変わるなー」
俺の持っている物に気が付いた日野が、そんな言葉を呟いた。
「もしかして…まだ、これ、飲んでる?」
俺が聞くと
「クリスマスの定番だろ?
 超オーソドックスじゃん」
日野は逆に不思議そうな顔をしてみせた。
この時、俺は初めてオーソドックスは人によって違うことを実感したのだった。

サラダの入った器を手に、カズハさんも姿を見せる。
「僕にとって、クリスマスのオーソドックスって、これなんですよね」
サラダの上には、ホワイトアスパラガスがてんこ盛りになっていた。
「何でかうち、クリスマスの時しかホワイトアスパラガスって食べなくて
 子供の時は『これはクリスマスの食べ物なんだ』って思いこんでました」
照れた顔を見せるカズハさんに
「いや、うちの食卓には出たことすらないな
 こーゆーのは、レストランで食べるもんだと思ってた」
中川先生は驚いた顔をする。
「うちは母さんの大好物だから、しょっちゅう食べてます」
俺も驚いてそう言った。
ミッションテーマは一緒なのに、こんなにも色々と違うのかと俺は今回のミッションの奥深さを思い知った。

料理がのったテーブルを囲み、グラスを手にした俺たちは

「「メリークリスマス」」

皆で乾杯する。
いつもソフトドリンクのカズハさんは『せっかくのクリスマスだから』とシャンパンを飲んでいた。
もちろん、空もお揃いだ。
俺と日野に合わせ、白久と黒谷はシャンメリーを飲んでいる。
羽生も中川先生に勧められてシャンメリーを飲んでいたが『やっぱり、ミルクにする』と途中で切り替えていた。
俺より大きくなって大人っぽくなっても、中身はまだ子猫のようだ。

「俺たちのミッション『パン』だけど…
 うち、クリスマスもチキンをおかずにして普通にご飯食べるんだよね
 ケーキはデザートでさ
 オーソドックスって言われてもよくわかんないから、フランスパンとロールパンにしてみたよ」
日野がそう言って舌を出す。
「何だ日野少年のとこ、うちと一緒か
 クリスマスのチキン、なんつっても照り焼きだからご飯がすすむんだよな」
ゲンさんがヒヒッと笑う。

「しかし、荒木少年のテリーヌとカプレーゼはパン向けだ
 今回のナウなヤングは荒木少年に決まりだな」
ゲンさんの言葉に
「でも、俺も家ではオードブルなんて食べないんだけど
 うちのクリスマスはケンタンのチキンセットだから、ポテトも一緒に買ってそれで済ませてるし」
俺は頭を掻いた。
「何だ、クリスマスってのは未だに昭和的なイベントだな」
ゲンさんは楽しそうに笑っていた。

「なら、クリスマスケーキはバタークリームにすりゃよかったか
 オーソドックスに、サンタとイチゴののった生クリームケーキを用意したんだが」
ゲンさんが言うと
「いや、バタークリームは正直美味しくないから
 子供の頃1回食べて懲りました」
中川先生が慌てて手を振った。
「だよなー、でも、あの味が懐かしいって、今でもこの時期になると売ってるんだよ、あれ」
腕を組んだゲンさんは神妙な顔で頷いて見せた。
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