しっぽや1(ワン)

□ハロウィンパーティー
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パーティー当日の土曜日、俺は衣装を詰めたバッグを持って登校する。
持って行くお菓子類は、すでに白久の部屋に準備してあった。
「事務所行く前に、ちょっと俺ん家に寄って良いか?」
休み時間、日野がそんな事を言い出した。
「かまわないけど、衣装、そんなに大きいのか?」
俺は日野のやる気にビックリする。
「違うよ、今日ハロウィンパーティーやるって言ったら、婆ちゃんが皆に持ってけって、カボチャ、山ほど煮てくれたんだ
 挽き肉のそぼろあんがかかってるやつ
 皆、そんなの食べるかなぁ」
心配そうな日野に
「俺、甘く煮たカボチャより、しょっぱい味付けのカボチャの方が好き」
俺は笑顔を向ける。
「それに、長瀞さんがありがたがると思うよ」
俺の言葉で、日野が明るい顔になった。

授業が終わり日野の家に寄ってカボチャ入りタッパーを持つと、俺達はしっぽや事務所に向かう。
「ゲンさんって、本当に皆で集まるの好きだよな」
「うん、でも、楽しいよね
 他の人の目を気にしないで黒谷と居られるの、俺、嬉しいから」
「…だな」
日野の言葉に俺はしみじみと頷いてしまった。



業務終了後、着替えるためにいったん影森マンションのそれぞれの部屋に戻る。
俺は予定していたグレイのパーカーのフードに灰色のフェルトを三角に切って縫いつけて、耳っぽくしてみた。
後はジーンズを履いて仮装完了だ。
白久はシェパードの色合いっぽく、黒のスーツに茶色のベストを合わせている。
いつもとは違う白久の正装に、俺はちょっと見とれてしまった。
「シェパードっぽいでしょうか」
不安な顔で話しかけてくる白久に
「凄い、格好いい」
俺はキスをして笑顔で答える。
それから、お菓子と飲み物を入れた袋を持って部屋を後にした。


ピンポーン

ゲンさんの部屋のチャイムを鳴らすと
「トリックオアトリート!」
満面の笑みのゲンさんが迎え出てくれた。
俺はそれを見て吹き出してしまった。
「毛、毛があるゲンさん!」
ゲンさんは長い白髪のカツラを被っている。
「ちぇ、さっき空にも爆笑されたよ」
ゲンさんは不満そうな事を言いつつも、その顔は笑っていた。

「ほら、ロシアンブルーとシェパードご一行様の到着だ」
ゲンさんに促されリビングに行くと、カズハさんと空の姿がある。
カズハさんは黒の上下で決めていた。
首には鋲の付いたごつい首輪を付けている。
俺の視線に気が付いたのか
「これ、空に買ってあげた物なんです
 僕が付けるより、空の方が似合うんですが」
カズハさんは苦笑しながら、そんな説明をしてくれた。
空はクリーム色のセーターを着ている。
頭にはクリーム色のフェルトで作った耳が付いたカチューシャを付けていた。
「ドーベルマンよりチワワの方がデカいってんだから、何だかな〜」
ニヤニヤするゲンさんに
「でも俺、チワワみたいに可愛いだろ?」
空は得意げな顔で頷いてみせていた。

長瀞さんがテーブルにカボチャのサラダを置き
「後でピザを注文しますから、メニューを見ておいてくださいね」
そう言って微笑んだ。
「水玉だ…」
いつも白い服を着ている長瀞さんだけど、今日はドット柄のシャツを着ていた。
「エジプシャンマウと言えば、やはりこの柄かなと
 何だか、自分ではないようです」
長瀞さんは照れたように微笑んだ。


ピンポーン

チャイムが鳴って、ゲンさんが迎えに出ると日野の吹き出す声が聞こえた。
「毛、毛がある!」
俺と同じ事を言っている。
「スコティッシュホールドとボルゾイご一行様、ご到着〜」
リビングに来た日野は、空とは逆に寝かせるような白いフェルトの耳を付けたカチューシャを付けていた。
首には鈴が付いた赤いリボンを巻いている。
「スコって、これ!って柄がないから、服は適当」
そう言って舌を出す日野は、茶のセーターを着ていた。
黒谷はフワフワした白い襟巻きを付けている。
「さすがに、あの巻き毛のようなフェイクファーは見つからなかったよ」
苦笑する黒谷に
「まあ、気分、気分!」
ゲンさんはウインクして見せた。

「長瀞さん、これ、婆ちゃんが皆さんでって」
日野がタッパーを渡すと中身を確認した長瀞さんが
「ありがとうございます!とても美味しそうですね
 今、お皿に移してきます」
そう言ってキッチンに消えていった。


ピンポーン

また、チャイムが鳴る。
「これで全員だな」
ゲンさんが迎えに出ると
「俺、お菓子が良いー!」
羽生の元気な声が聞こえた。
「ゲンさん、今日も少し飲むでしょ?」
「もちろん!中川ちゃんが何か持ってきてくれるんじゃないかと期待してたんだ」
「これ、貰い物だけど、今日開けちゃいましょう」
「おお!スゲー!」
ゲンさんと中川先生が和気藹々とリビングに登場した。
「三毛猫とヨークシャーテリア、到着!」

羽生は茶色のセーターを着て、茶色の耳が付いたカチューシャを付けていた。
中川先生は茶色の背広、黒のベスト、白いシャツを着ている。
「俺が一番楽に仮装できたな、これ、いつもの出勤スタイル」
先生はそう言って、爽やかに笑った。
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