しっぽや1(ワン)

□お泊まりデート〈A〉
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「どこ火傷したの?まだ痛い?」
焦って聞く俺に、白久は困った笑顔を向ける。
「荒木、大丈夫ですよ、すぐに冷やしましたし、本当に大したことはないですから」
そう言われても、俺は心配でたまらなかった。
泣きそうな顔の俺に根負けしたのか、白久が袖をまくる。
右の手首より先の部分に包帯が巻かれていた。
「病院には行ったの?」
そう聞いて、自分の問いかけにハッとする。
『化生を診てくれる病院なんてあるのかな』
顔色を読んだのか
「この程度であれば、手持ちの薬で対処できますよ」
白久は俺を安心させるように微笑んだ。

「荒木、ちょっとやそっとじゃ病院に行かなくて良いくらい、僕達の所にある薬箱の中身は充実してるんだ
 それに最悪、駆け込める場所もあるしね」
黒谷もそう言ってくれる。
「あ、秩父診療所ってまだあるんだ…」
驚いた顔の日野の呟きに、俺は首を傾げた。
「秩父診療所?」
「私たちを診てくださるお医者様がいる場所です」
白久の言葉は、思いもよらないものであった。
「詳しい経緯は、今夜にでも説明いたしましょう
 さあ、早く食べてしまわないと依頼人が来てしまうかもしれませんよ」
その言葉にハッとして、俺達は食事を再開する。
途中、捜索から戻ってきた双子や羽生にも料理を振る舞って、料理の山は無くなった。
「さすがに苦しいや」
腹をさすりながら言う日野は、俺の見たところ半分近くの寿司やおにぎりを食べていた。
『日野、恐ろしい子』
以前ゲンさんがフザケて言っていた言葉が、俺の頭の中でこだましていた…


業務終了後、俺達は影森マンションへと帰っていく。
夕飯は個々に食べることになっていた。
皆でワイワイ食べるのも楽しくて良いけど、白久と2人っきりで落ち着いた食事の時間も楽しみたかったからだ。
多分、日野も同じであろう。
部屋の前での別れ際
「明日は2人でゆっくり楽しんでこいよ
 その代わり、明後日は頼むな」
日野がそう言ってウインクする。
明日、白久と俺が休むので、明後日は黒谷と日野が休みなのだ。
「明日は任せたから、明後日は任せろ!」
俺はそう言うと、白久の部屋のドアを開け中に入っていった。

「昨日、おでんを作っておきました
 味が染みてますし、暖め直すだけなのですぐに出来ます」
上着を脱ぎながら、白久が微笑んでくれる。
「うん、いつもありがとう」
部屋着に着替える白久の腕に巻かれた包帯に、つい目がいってしまう。
また、心配そうな顔をしてしまったのだろう。
白久が俺を抱きしめて
「大丈夫です」
優しくそう言ってくれた。
そんな白久の胸に頬ずりする。
白久は安心させるように、優しく唇を合わせてきた。
俺もそれに反応し、白久の舌を求めてもっと深く唇を合わせる。
俺達はすぐに荒い息づかいになり、激しく唇を求め合った。

「ご飯より先に…荒木を食べてしまってもよろしいでしょうか」
頬を染めた白久が、悪戯っぽく聞いてきた。
「良いよ、明日は休みだから今夜はゆっくりしよう」
俺は白久に抱きしめられ幸せを感じていた。
俺達はベッドに移動すると、服を脱いでいく。
一糸纏わぬ状態になると、ベッドの上でしっかりと抱き合った。
白久と触れあうのは台風でお泊まり出来た時以来だ。
あれから半月以上が過ぎている。
頬や唇、首筋を辿る白久の唇の感触を心地よく感じながら
「しょっちゅう泊まりにこれなくて、ごめんね」
俺はそう謝った。
「日野みたいに、ちょいちょい泊まりに来れれば良いんだけど…」
荒くなっていく息の元、そんなことを言うと
「飼い主があらわれない寂しさに比べれば、こうやって、たまにでも触れ合える飼い主が居てくださるのは本当に幸せなことです
 荒木は学生なのですから、まだまだご両親に甘えてさしあげてください
 私との生活は、いつだって始められますよ」
白久は俺を安心させるように微笑んでくれた。

「うん」
俺はそう答えると、白久のもたらしてくれる刺激に集中する。
触れあっている部分から、甘い痺れが体中に広がっていった。
「はぁ…、ん…」
熱い吐息が絶え間なく口からもれてしまう。
体中が白久を求めていた。
白久と繋がりあい、熱い想いを解放しあうと心地よい気だるさに包まれる。
白久は俺を胸に抱き優しく髪を撫でてくれた。
またしたくなってしまうが、まだまだ夜は長いのだ。
焦らなくても大丈夫だという状況が嬉しかった。

少し休んだ後2人で軽くシャワーを浴び、白久は夕飯を作りにキッチンに移動する。
俺は白久の部屋の中を改めて見回していた。
今まで気にしたことはなかった本棚に目が止まる。
『白久って、どんな本読むんだろう』
そんな興味が沸いてきて、俺は本棚に近寄った。
小説の類はほとんどなく、栄養学や料理の本、医学書といった実用書ばかりが並んでいる。
人間のことを勉強しようとしている白久らしい本棚の中身だった。
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