しっぽや1(ワン)

□歓迎会2
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side〈ARAKI〉

夏休みも残り1日の8月30日の朝。
いつもの暗証番号メールと一緒にゲンさんからのメールも届く。

『夏休みのうちに2度も歓迎会を開くことが出来て、オジサン、感無量!(≧▽≦)
 今夜は大いに楽しもうぜ(^_^)b
 今回のミッションは難易度上げていくから、全開で若人の光るセンスを見せてくれよ(・∀・)
 白久・荒木組のミッションは「肉屋」!
 何を買えば良いかって?( ´艸`)
 考えるな!感じろ!(`・ω・´)
 素材を買ってうちのキッチンで調理するのももちろんありだが、何時間も煮込むようなもんは流石にカンベンな(^。^;)
 今回人数増えたから、予算は税込み4000円前後ってとこかな?
 少年は学生だし、費用は白久に多く出してもらえよ(*´∀`)
 前回と同じ時間に全員集合!(もちろん、8時だよ!)
 では、股、後ほど(^_^)ノ』

あいかわらずテンションの高いメールだった。
でも『夏休みのうちに2度も歓迎会を開くことが出来て、感無量』というのは、俺にもわかる気がする。
しかも今回は俺が迎えられる側じゃない。
俺が日野を迎える側なのだ。
『化生の飼い主としては、俺の方が先輩だもんな』
そんなことを考えると、ちょっと偉くなった気がしてきた。
『あれ、そういえば中川先生やカズハさんより、飼い主としては俺の方が先輩なんだ』
そう気が付いて、また不思議な気持ちになる。
この夏休み色々あったけど、歓迎会はその最後を飾るに相応しいイベントに思われた。
俺は自分に気合いを入れて
『頑張って選んでみます』
と返信した。

『しかし、漠然と肉屋と言われても…』
そう言われるとメンチや唐揚げといった、いつもの肉屋の揚げ物系お総菜だけじゃセンスを問われそうで考えてしまう。
『いつもと違う肉屋に行ってみようかな
 確か学校がある駅近の肉屋は学生御用達って感じで、総菜の種類多いって部活やってる奴ら言ってたし
 珍しいのあるかも
 お昼食べた後、白久と行ってみる時間あればいいけど』
俺はそんな事を考えながら、しっぽやに行く準備をする。
夏休みが終われば、白久の所になかなか泊まりに行けなくなってしまう。
今日は夏休み最後の貴重な泊まり日だ。
俺には、今日という日が特別なもののように思われた。

業務開始前のしっぽや事務所に着くと、日野の姿が先にある。
俺は日野に近づくと声を落とし
「お前達の今日のミッションて何?」
そう聞いてみた。
「ん?ゲンさんのメールには『古今東西お菓子』って書いてあったな
 つか、これってどういう意味?」
日野は困惑した表情を見せる。
「わかんないよ、俺なんて『肉屋』だぜ?
 今回のミッション、漠然としてて難易度高すぎ」
俺は思わずため息をついた。
「学校最寄り駅の側に、部活やってる奴ら御用達の肉屋あるだろ?
 お前んちから近いし、行ったことある?
 何か珍しい物売ってない?」
そう尋ねてみても
「えー?普通の肉屋だよ
 まあ、揚げ物系総菜の種類は豊富だけどさ
 俺も部活帰りによく買い食いするよ
 つか、俺はどうすれば良い?
 こっちのスーパー、珍しいお菓子売ってんのか?」
日野に逆に聞き返されて、俺も困ってしまう。
「いや、チェーン店のスーパーだから特には…」
俺は前回お菓子を買ったときのことを思い出し、口ごもった。

ヒソヒソと囁きあう俺達に
「日野、どうしましたか?何か問題でも?」
黒谷が声をかけてくる。
「いや、今日のミッションが…」
日野がモジモジと答えると
「大丈夫です、後で2人で買い物に行きましょう、きっと良いものを選べますよ
 飼い主とお買い物…
 ああ、何て幸せなんだろう
 お金を出せば物が買える時代、素晴らしいね」
黒谷はどこかうっとりとした顔でそんな事を言う。
「クロ、私達も負けませんからね」
白久が挑発的な笑顔で黒谷に言葉をかけていた。
『いや、勝負の基準がわからないんだけど…』
俺は白久の言葉に心の中でため息をついた。
「今日は買い物があるから、昼休みは交代で長めにとっていいよ」
そんな黒谷の言葉に
『ここの経営、本当に大丈夫かな』
以前にも感じた不安が頭をもたげてしまった。

「さて、そろそろ時間ですね」
 今日はしつけ教室があるので、参加者の方が後30分くらいで来ます
 空、準備は大丈夫ですか?」
白久の言葉に
「俺はいつでも準備オッケーさ」
空が得意げにそう答え、業務開始となった。
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