しっぽや1(ワン)

□夏休み初日
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コンコン

ノックとともに扉が開き
「おー、何だ何だ?
 むさ苦しいのと可愛子ちゃんが入り乱れてんなー」
ゲンさんがそう言いながら事務所に入ってきた。
「荒木!」
白久がその後ろから嬉しそうに俺に近づいてくる。
「ちょ、これじゃ、依頼人が来ても入れない…」
黒谷がその後ろに続いて入ってきたため、事務所内は人間と化生でギュウギュウ詰めになってしまう。

「荒木少年が居るのはナイスタイミングだな
 一気に用事が片付くぜ
 っつー訳で、はい、これ
 オジサンからのプレゼント」
ゲンさんはそう言って、俺に小さな紙袋を手渡した。
「カズハちゃんには、こっちな」
カズハさんにも、同じ袋を手渡している。
何だろうと思いながら中身を手に出すと、それは小さな白い犬のマスコットが付いた鍵だった。
「あ、言っとくけど、俺ん家の鍵じゃねーかんな
 うちは俺とナガトの永遠の愛の巣なんだから」
ゲンさんはニヤニヤしながら俺を見た。
「いや、ゲンさん家の鍵貰っても困るし…」
俺は露骨に顔をしかめてみせる。
「言うねー、少年
 ま、そりゃ白久の部屋の鍵だよ
 合い鍵ってやつ
 どだ?何かこー、グッとこねー?」
ゲンさんは、まだニヤニヤしている。
「えっ?」
白久の部屋の鍵と聞いて、とたんに俺はその鍵が宝物のように思えてきた。

「ただそのマスコット、紀州犬なんだ
 白久の毛色みたいな秋田犬のマスコットなんて、売ってねーからよ
 んで、今時ハスキーのマスコットなんて探すの苦労したんだからな」
ゲンさんに言われ
「今時って言うな、まだまだトレンディーだろ?」
空が頬を膨らませる。
「わざわざありがとうございます」
カズハさんがペコペコと頭を下げた。

「荒木少年、そろそろ夏休みなんだって?
 たまにゃー白久の部屋に遊びに行ってやんな
 影森マンションの直通エレベーターの暗証番号、毎朝メールしてやるからよ
 そうだ、今からマンション行って、入力方法とか白久に教わるといいぜ
 今日の番号は、直接白久に聞いてくれ」
ゲンさんにそう言われ
「でも俺、来たばっかだし…」
早くこの鍵を使ってみたかったが、俺はチラリと黒谷を見る。
「あー、はいはい、これじゃ依頼人が落ち着いて入れないだろ?
 とりあえず鍵がちゃんと使えるか、試しに行って
 皆、散った、散った」
黒谷がブンブンと俺達を追い払うように手を振った。
「参りましょうか」
白久がソッと俺に寄り添うと、対抗するように空が
「俺達も行こうぜ」
カズハさんを抱きしめた。

黒谷一人を事務所に残し、俺達はゾロゾロと移動する。
1階の大野原不動産に戻るゲンさんが別れ際に
「うちは俺とナガトの愛の巣だけどよ、夏休みのうちに、遊びに来いや
 ナガトの美味い手料理ごちそうしてやるよ」
そう言って丸サングラスを持ち上げてウインクしてみせた。
「ゲンさんとこ行くと、見せつけられそうだからなー」
俺が笑って言うと
「白久と来て、見せつけ返せや」
ゲンさんはヒヒヒッと笑って大野原不動産の中に消えていった。

ゲンさんが減っても、大きなハスキー3人、大きな狼犬1人、大きな秋田犬1人がいるため何だか人口密度が高い気がする。
俺達はまたゾロゾロと影森マンションへの道を歩き始めた。
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