しっぽや1(ワン)

□夏休み初日
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side〈ARAKI〉

待ちに待ってた夏休み!
俺(野上荒木)は終業式を終えた後、そのままバイト先であるしっぽやの事務所に向かっていた。
暑い道を歩いている俺の足取りは軽かった。
『白久と会える時間が増える』
そう思うだけで、自然と顔がニヤケてしまう。
『白久の仕事が休みの時とか、どっか遊びに行きたいな』
そんなことを考えながら事務所への階段を上ると、何だか大勢の声が聞こえてきた。
『え?団体の依頼人?』
俺は疑問に思いながら扉をノックして、中に入る。
事務所内はいつにもまして、人口密度が高かった。

「貴方が陸、貴方が海ですね」
「すげー!兄貴だって、たまに俺達の事呼び間違えるのに、カズハもう俺達の見分けつくんだ!」
「当たり前だろ?
 カズハはトリマーでもあるんだぜ
 犬のプロってもんよ!」
「なんと良いお方に飼っていただけることになったものだ」
波久礼と、1回だけ会ったことがあるシベリアンハスキーの化生のようだが…
『あれ?』
そこには同じ顔が3人並んでいた。

俺がポカンとその一団を見ていると、取り囲まれていた人が大きな化生達の隙間から俺を見つめてきた。
『わ、何か可愛い感じの人』
その人は眼鏡をかけて、長めの髪を後ろで一つに縛っている。
「こんにちは、貴方は初めて見る顔ですね」
彼はニコニコしながら、俺にそう話しかけてきた。
「あ、こんにちは」
俺も慌てて挨拶を返す。
「とても可愛らしいけれど、快活そうだ
 猫と言うより犬?和犬かな?小さいし、柴犬?」
勘違いされている事がわかるその人の言葉に
「えっと、俺、人間です」
俺は焦ってそう返事を返す。

俺の言葉でその人は耳まで真っ赤になっていった。
「あ、そ、その、すいません!ご、ご、ごめんなさい!
 あんまり可愛いから化生かと思っちゃって!
 ああ、よく見れば制服着てる!
 ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」
もの凄い勢いで頭を下げだしたその人に、俺はどう反応して良いかわからなくなってしまう。
「カズハ、大丈夫だよ荒木は良い人だ
 白久の飼い主なんだぜ」
その人(カズハさん?)を抱きしめて、ハスキーの内の1人が安心させるようにそう言った。
それを見て、俺にもようやくこの人は化生の飼い主であることが判明する。

「荒木、こちらは空を飼っていただくことになった樋口殿です
 この近くにあるペットショップの店員さんでもあります」
波久礼がそう紹介してくれる。
「その店でトリマーもやってるんだぜ」
どこか誇らしげに空が補足する。
「樋口一葉です、よろしくお願いします」
また、カズハさんはペコペコと頭を下げだした。
「俺は野上荒木って言います
 こちらこそ、よろしくお願いします
 あっと、その、白久の飼い主です」
『白久の飼い主』
俺は自分で言ったその言葉に、照れながらも誇らしい気持ちになってしまった。
『白久もいつも、こんな気持ちで「荒木の飼い犬」って言ってくれてるのかな』
そう考えると、何だか幸せな気持ちがわき上がってくる。

「荒木…?高校生名探偵の少年?」
カズハさんの呟きで、誰がそんなことを吹聴して回ってるのかすぐに察しがついた。
「いや、普通に高校生やってますから…」
俺は少し疲れた感じで訂正するしかなかった。
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