しっぽや1(ワン)

□夏の空 3
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side〈KUU〉

これから樋口に告白するというタイミングで胸にともった危険信号に、俺は焦りまくってしまう。
『クソッ、何だよ!こんな時に!』
しかし、それを無視する事は出来ない。
それは、俺に助けを求める気配であったのだ。
『まさか、三峰様や陸や海に何かあったのか?』
俺は慌ててその気配の主に焦点を合わせる。
『な、何でアイツが…?』

黙ってしまった俺に
「あの、空さん…?話って?」
樋口がオズオズと声をかけてきた。
「俺、あの、俺…
 樋口さんの事が好きなんです!
 俺を側に置いてください、飼ってください!
 ああっ、ダメだ、気配が湿ってる!溺れる!
 すんません、俺、行かなきゃ
 でも俺、本当に貴方のこと好きなんです!」
自分でも何を言っているのかわからなくなってきたが、事態はそれどころではなかった。
俺は五千円札をテーブルに置くと、店から飛び出した。

『この辺で水のあるとこって、どこだ?
 そうか、公園!
 確か、ビオ何とかって池があるって兄貴が言ってた』
そう思い至り公園への道を駆けながら
『人前で、ろくに説明もしないで好きとか飼ってくれとか言っちまった…
 樋口、俺のこと危ない奴だって思ったろうな
 もう、会ってもらえないかも…』
しかし、落ち込んでいる時間は無い。
俺は公園に着くと、池を探して走り始めた。

まだ暑い時間のせいか、公園内に人影は見られない。
探している池はすぐに見つかった。
浅くて、ここで溺れるのは至難の業に思えたが、池の中程に泡が浮いているのが見える。
俺は迷わず池に入ると、バシャバシャと水を跳ね散らかしながらその泡の付近に近付き、両手を水に突っ込んで目指すものを探し始めた。
それはすぐ、俺の手に触れた。
慌ててそれを池から引き上げる。

「クリーム!
 バカッ、お前、こんなとこで何やってんだよ!
 俺ならガキの時だってこんな池で溺れる、なんて真似出来ねーけどよ
 お前、自分の体型考えろよ!
 クリーム、おい、しっかりしろって!!」
深さは30cmにも満たない浅い池、でもコイツは短足のミニチュアダックスの子犬なのだ。
その深さは、十分死の危険があるものであった。
「クリーム!!」
俺が呼びかけても、クリームは四肢をダラリとさせたままピクリとも動かさない。
その体は、ゾッとするほど冷たかった。

「く、空さん、やっと追いついた
 お釣り忘れてます
 あれ?ダメですよ、大人がビオトープに入ったら怒られますよ」
後ろから樋口の声がする。
追いかけてきてくれた嬉しさと、腕の中にいる絶望が俺の胸の中で複雑に渦巻いていた。
ボタボタと藻の混じった水をしたたらせながら俺は池から上がり、クリームをそっと横たえてやる。
「えっ?!クリーム?」
樋口にも、事の重大さが飲み込めたようだが、俺には詳しく説明している時間は無かった。
無理矢理クリームの口を開かせると、少量の水が出てくる。
「こんなもんじゃないだろ?」
俺はクリームを逆さにして持ち上げてみた。
少し乱暴に振り、また横たえて腹をそっと押してみる。

ゴボリ

先程より多くの水がその口から流れ出す。
しかし、クリームは動かない。
「大丈夫、俺たちは強いんだよ
 ちょっとくらい息が止まったって、平気なんだ
 大丈夫だから、頑張れ」
俺はクリームの鼻から息を吹き込み、刺激してみる。

ゴボリゴボリ

また、口から水が流れ出てきた。
俺は何度も息を吹き込んでやる。
何度目かに『ゲフッ』と反応があった。
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