しっぽや1(ワン)

□夏の空 2
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side〈KUU〉

黒谷の旦那の部屋に居候する事になった次の日。
俺は出勤する黒谷と一緒に、しっぽや事務所へ行ってみる。

「洋犬の捜索依頼がきたら、俺も手伝ってやるよ
 ハスキー飼ってる人間、沢山いるだろ?」
俺がそう言うと
「ハスキーなんて、最近はとんと見かけないよ
 今の主流はミニチュアダックスとかトイプードル、チワワ、和犬なら柴とか
 この辺は小型犬を飼ってる人の方が多いんだ
 中型犬はミックスが多いかな?
 地域によっても変動はあると思うけどね」
黒谷は報告書の束を見ながらそう答えた。
「ふーん…」
俺は少し寂しい気持ちになったが、時計を見て気を取り直した。
「お、店が開いてから1時間以上経ってるじゃん
 お客は少ないけど準備に一段落つく頃だってゲンが言ってたな
 俺、ちょっと樋口のとこに行ってくる!」
俺はそう言って、事務所を後にした。

ペットショップに入ると、すぐに樋口の気配に気がついた。
昨日と同じ様にドライフードの棚を整理している。
「あの、すみません」
俺が近寄って声をかけると
「いらっしゃいませ、何かお探しですか?
 あれ、貴方、昨日の…?えっと、空さん?」
立ち上がった樋口は俺の名前を呼んでくれた。
「そうです、空と書いてクウと読みます!
 英語で言うとスカイです!」
覚えていてもらえた事が嬉しくて、俺は舞い上がってしまった。
「今日も抱っこしていかれますか?」
樋口の言葉に、俺はコクコクと頷いた。

クリームも俺の事を覚えていて、大ハシャギでまとわり付いてくる。
『クウおじちゃん、追っかけっこちて、抱っこちて、頭いい子いい子ちてー』
「んなに一辺に出来ないっつーの、てか、お兄ちゃんって言え!」
俺が抱き上げてやると、クリームは顔中を舐めまわし始めた。
「犬の扱いお上手ですね、飼ってるんですか?」
樋口は笑顔で聞いてくる。
俺はその笑顔に見とれながら
「いや、まあ、飼ってはいないんですが、…前はちょっと」
『自分が犬でした』とは言えない。
「今は仕事の都合で飼えないんですよ、だから寂しくて」
ゲンに教えてもらったセリフを口にし樋口の反応を伺うと
「そうですか、転勤が多かったりすると難しいですよね
 でも、飼える環境になったら、是非一緒に暮らしてください」
樋口は微笑んだ。

『貴方と一緒に暮らしたい』
俺はその言葉を飲み込み
「俺、少し早い夏休みをとって、こっちの親戚の家に遊びに来てるんです
 それで、あの、また来ても良いですか?」
また、ゲンに教えてもらった言葉を口にする。
「こちらにいる間だけでも、おいでください」
樋口はそう言ってくれた。
『あまり長居はしない方が良い』
ゲンのアドバイスに従い、俺はそれから10分程で店を出る。

『ゲンのアドバイスは的確だなー
 さすが、長瀞目当てでしっぽやに通い詰めたって言ってただけの事はある!
 よし、また教えてもらおう!』
俺は意気込んで大野原不動産に向かって行った。
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