しっぽや1(ワン)

□初バイト
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side〈ARAKI〉

愛猫のクロスケを亡くして迎えた初めての土曜日、俺は学校の帰りにペット探偵『しっぽや』に向かっていた。
今日は、バイトの初出勤の日なのだ。
昼ご飯は食べずに来て欲しい、と言われたので友達の誘いを断り、授業が終わるとすぐに駅に行った。

コンコン

緊張しながらノックして事務所の扉を開けると
「やあ、いらっしゃい」
黒谷が笑顔で迎えてくれる。
「荒木!」
すぐに、白久が所員控え室から姿を現した。
いつものように、白いスーツを着て赤いネクタイをしている。
白久と会うのは約1週間ぶりであったが、俺を見て変わらない笑顔を見せてくれたのが嬉しかった。

「あの、今日は何をすれば良いですか、黒谷さん
 俺にも手伝える仕事ってあるのかな?」
ここで働くという事は、上司は黒谷になるのだろうと話しかけると
「僕の事は黒谷で良いよ
 僕も君の事、荒木って呼んで良い?
 って、あんまり馴れ馴れしくすると、シロに喉笛食い千切られそうで怖いけど」
黒谷は肩を竦めて笑ってみせた。
「クロ、私はそこまで了見が狭くありませんよ」
白久が呆れたように言う。

「では荒木、本日の職務を伝える
 うちの犬に餌を与え、散歩に連れて行ってくれ」
黒谷はもっともらしく、そう言った。
「え?」
俺は、意味がよく飲み込めず聞き返す。
「ようは、そこのデカワンコと一緒に食事して、買い出しに付き合ってくれ、ってこと」
黒谷は笑ってそう言い直した。
「ええっ?」
『何か、それってデートみたい…』
俺は焦って白久を見るが、白久は微笑むばかりであった。
「じゃ、行ってらっしゃい
 僕はお茶菓子、チーズおかきが良いかな
 猫達にはアーモンドフィッシュでも買ってきて」
黒谷はニヤニヤ笑いながら、手を振っている。
俺と白久はそれを見ながら、事務所を後にした。
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