しっぽや1(ワン)

□捜索依頼〈クロスケ〉報告書
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その後、荒木の家を後にして、しっぽやの事務所に戻る。
私の報告に
「クロスケ君は、良い人に飼われていたのだな」
黒谷はしみじみとした口調で言った。

「シロ、これからはお前の稼ぎが、あの坊やの稼ぎになるんだ
 しっかり働けよ
 依頼の選り好みしないで、洋犬の捜索も引き受けろ
 まあ、あいつらの想念、和犬の僕達には読みにくいけどな」
少し苦笑気味の黒谷に
「荒木のために、頑張りますよ。」
私は笑って答える。

「…あの坊やと、したのか?」
少しのためらいとともに、黒谷が声をひそめて聞いてきた。
「…はい
 人と、あのように契れるとは思いませんでした」
私は少し照れながらも素直に頷いた。
「良かったな
 その時になったら、体が勝手に反応するから大丈夫だって言ったろ?
 僕も…、そうだったよ」
黒谷は遠い目をして笑う。
「クロ…」
黒谷が先の大戦で2度目の飼い主を失っている事を知っている私には、かける言葉が見つからない。

そんなやり取りをしていると、しっぽやへ続く階段を上る足音が聞こえてきた。
「おっと、依頼人だ
 年配の女性っぽいな、猫か小型犬の捜索依頼ってとこか?」
黒谷が気配を読んで分析する。
「それでは、私の管轄外ですね」
私は笑いながら答え、所員控え室の扉を開けた。
「だから、選り好みするなって」
笑う黒谷を背に、扉を閉める。

『貴方にも、きっとまた貴方だけの飼い主が現れますよ』
私は心の中で、そっと黒谷に呟いた。


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