しっぽや4(アラシ)

□雷鳴
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「黒谷、これは一体…?」
状況が飲み込めない長瀞と空が不安な顔で問いかける。
この事が公になれば、化生の中でパニックは避けられない。
躊躇したが他言無用の約束で、僕は白久が以前の飼い主の転生体と出会ったこと、その方と契ってしまったらしいことを伝えた。
空は、ショックを受けた顔をして座り込んだ。
長瀞は気丈な様子で
「三峰様に、指示を仰いだ方がよろしいのでは?」
そう聞いてくる。
「うん、その方が良いと思う
 シロの状態も診てもらいたいし、こちらにお越しいただかないと
 シロは自分を許せないあまり、消滅しかかってる
 だから、気配が薄いんだ…」
僕の言葉に、長瀞と空が息を飲む。

「私が三峰様の元に参ります
 電話で説明するよりも、私が感じ取れない白久の状態を転写してみせた方が事態の深刻さが伝わると思いますので
 この時間ならゲンに車を出してもらえば、電車で移動するより効率的です
 黒谷は白久に付いていてあげてください」
長瀞の言葉はありがたいものであった。
「頼むよ、そのまま三峰様を連れてきてもらいたいが、きっと色々準備に時間がかかるだろう
 長瀞、それを手伝ってさしあげて
 悪いがゲンにはそれを待たず、こちらにとんぼ返りしてもらいたい
 もしも荒木にこの事が発覚した際、荒木を支える者が必要だ
 それは僕たち化生より、人間である飼い主の方がいいだろう」
長瀞は僕の言葉に頷いてくれた。
「ゲンは、人の気持ちを察知して和ませる天才ですからね
 きっと、荒木様もゲンが側に居れば大丈夫です」
長瀞はフフッと微笑んだ。

それから空を部屋に帰らせ、長瀞とともに駆けつけたゲンに状況を説明したり、2人を送り出したりバタバタしていた。
一区切りついて白久の様子を見に行くと、温和しくベッドで横になっているものの、やはり気配は薄かった。
「少し寝なさい、僕が付いてるから」
そう話しかけても焦点の合わない目でボンヤリしている。
「土鍋、こっちに置きっぱなしになってたね
 また雑炊でも作ろうか、何も食べないのも良くないよ
 材料は、適当に使わせてもらうからね」
そう言っても、反応はない。
『部屋に入った時は多少の反応があったのに
 自分の思考に捕らわれすぎてるのか?マズいな…』
危惧すべき状況であるが、今の僕では何も出来なかった。
とりあえず何か作ろうとキッチンで作業を開始する。
雑炊が出来上がった頃、ドアの前の気配に気が付いた。

ドアを開けると、そこにはオドオドした顔の空が立っている。
「どうした?部屋に居て良いんだよ
 今日はカズハは部屋に来ないのかい?」
僕の言葉に空は頷いて
「あの、これ…
 俺、まだこんなもんしか作れなくて…
 本当は肉屋のメンチ食えば元気出るかと思ったんだけど、もう閉店してる時間だから」
オズオズとタッパを手渡してきた。
どうやら、夕飯を作ってきてくれたらしい。
彼なりに、白久を心配しているのだ。
「ありがとう、白久の様子、見ていくかい?」
そう問うと、空はコクリと頷いた。

部屋に入った空は、ベッドの白久を見て息を飲み顔を曇らせる。
「うん、さっきより気配が薄まってる
 良くない兆候だ」
僕はそう言って、テーブルの上に空の持ってきた物を広げてみた。
「これはまた、オーソドックスだね
 長瀞に料理を教わり始めた羽生が、よくお弁当で持ってきてた組み合わせだよ」
タッパの中にはウインナーと卵焼き、ブロッコリーのサラダが入っていた。
アルミホイルに包まれたオニギリもある。
「羽生より上手いじゃないか
 羽生の弁当、最初は消し炭みたいなウインナー入ってたもんな」
僕が誉めると、空の顔が少しほころんだ。
「僕も雑炊作ったんだ、食べてく?
 シロはまだ食べられそうにないからさ」
そう誘うと、空は寂しそうな顔で白久を見た後
「じゃあ、俺のは黒谷の旦那が食べてくれ
 今日はずっと、白久についてるんだろ?」
頷いてそう答える。
「じゃ、ごちそうになるかな
 何だか、持ち寄りパーティーみたいだね」
僕は少し笑って、食事の準備を始めた。
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