しっぽや4(アラシ)

□雷鳴
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side〈KUROYA〉

元の飼い主の転生体と出会い、動揺しきっていた白久を置いて捜索になど出るのではなかった…
僕は、激しくそれを後悔していた。

柴犬ミックスの捜索を無事に終わらせてしっぽや事務所に戻ると、所長机の椅子には長瀞が座っていた。
「黒谷、ご苦労様」
微笑む長瀞に
「あれ?シロは?」
事務所内を見回しながら、僕は聞いてみる。
「それが、私にも何が何だか…
 捜索から帰ってきたときに階段ですれ違って『受付を頼む』と
 何か、緊急事態でも起こったのですか?」
長瀞の返事に、僕は慌ててスマホを取り出してみるが着歴は無かった。
「いや、連絡は来てないし、僕もしてないよ」
何だか嫌な予感がしたものの、その日はいつになく忙しく、白久の行方を詮索するのは後回しになった。

その後いつもと同じ時間に事務所を閉めて、帰路に着く。
「白久、結局、帰って来ませんでしたね
 どうしたのでしょうか」
階段を降りながら、長瀞が心配そうに聞いてきた。
「シロ、ちょっと昨日色々あって疲れてるんだ
 本当は、今日は休ませようと思ってたから、居ないのはかまわないんだけどさ
 部屋に帰ってると良いんだけど…
 ちょっと、部屋を見に行ってみるよ」
そう言う僕の後ろから
「白久のとこ行くの?
 俺も行こうっと
 一緒にお取り寄せしないか、って誘われてたからさ
 打ち合わせしとかないと」
空が脳天気な声を出す。
「お取り寄せ…まとめて頼めば送料が安くなるかも
 空、私も混ぜてください」
長瀞もそんな事を言い出したので、僕たちはそのまま白久の部屋に向かうことにした。

白久の部屋の扉の前に立つ。
「気配がない…居ないようですね、どこに行ってしまったのでしょう」
長瀞は首を傾げるが、僕は異常に気が付いた。
白久の気配が極々微かに感じられる。
「シロ?シロどうした?居るんだろ?」
大声を出した僕に
「いや、黒谷の旦那、気配がねーから留守だって」
空が苦笑した。
その言葉に、僕の中の不安はますます大きくなっていく。
付き合いの長い僕にしか気配が感じ取れない程、白久の存在が弱々しくなっているのだ。
扉のノブを引くと、それは抵抗無く開いた。
「シロ?!」
僕は焦って薄暗い部屋に飛び込んだ。
僕の焦りが伝染したのか、長瀞と空も後に続く。

明かりをつけると、部屋には白久の着ていた物が脱ぎ散らかされている。
白久は一糸まとわぬ状態で、うなだれながらベッドに腰掛けていた。
「な、何だよ、居るんじゃねーか」
空が白久の姿に驚いて、上擦った声を上げる。
「白久?貴方、大丈夫ですか?」
長瀞が呼びかけても、白久は反応しなかった。
「シロ?どうした、何があった?」
僕が白久の肩を掴んで乱暴に揺すると、やっと白久が顔を上げた。
「クロ…私は…私は、何と浅ましいことを…」
白久は自分の頭を抱え込んだ。
「私は、何と愚かなことを…
 荒木という飼い主がいながら、私は…
 あのお方と契ってしまうなんて…!」
白久の言葉の衝撃は、状況を理解している僕にしか伝わらなかった。
「あんなに良くしてくださった荒木を裏切るなんて
 私はいったい何のために化生したのか
 これでは、ただの獣と変わらないではないか
 私は、何のために存在しているのだ…」
白久の気配が、また一際薄くなっていく。
それは、和銅を失った僕が陥っていた状態に酷似しているように感じられた。
「シロ!存在を放棄してはいけない!気をしっかり持って!
 君に荒木が必要なように、荒木には君が必要だ!
 荒木を残して消滅なんてしてはいけない!
 落ち着くまで、今は少し休むんだ
 眠って、考えるのはそれからで良い」
僕は白久を強引にベッドに寝かせると、シーツを被せた。
白久は抵抗せず従ったが、眠る様子はみせず、ぼんやりとしているばかりであった。
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