しっぽや4(アラシ)

□強風
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side〈ARAKI〉

「えっと、サンドイッチはツナと卵だっけ?
 後、ピタパンと…唐揚げ入ったパンなんてないじゃん
 俺も食いたいし、適当に色んなもん買って行くか」
俺は日野と約束した日に、パン屋で宿題を見せてもらう報酬を選んでいた。
トレイの上には山のようにパンが積まれている。
パン屋でこんなに大量の買い物をしたことが無かった俺は、会計の間ドキドキしっぱなしだった。
店員から言われた金額は、白久と2人でファミレスランチをしたものより少し多いくらいで済んでくれてホッとする。
俺はパンや飲み物の入った大きなビニール袋を手に、日野の済むマンションへの道を歩いていった。

白久の飼い主の生まれ変わりだと判明した今、日野と会うことに抵抗を感じない訳ではない。
けれども黒谷が言っていたように、きっと日野は過去世の記憶なんて覚えていないだろう。
俺だって誰かの生まれ変わりかもしれないけど、そんなこと全く覚えていないからだ。
それに、日野とは気の合う友達だし、こんなことで疎遠になりたくなかった。

日野の住むマンションは最新セキュリティの影森マンションと違い、エントランスなどはない。
直接相手の部屋に尋ねていける、昔ながらのマンションであった。

ピンポーン

チャイムを押してしばらくすると、ガチャリと鍵の開く音とともに扉が開かれて日野が顔を出した。
「荒木、暑い中ご苦労さん
 おー、大量、大量!」
日野は俺の持つビニール袋に目を向けて、満面の笑みを見せる。
「俺1人だから、俺の部屋しかエアコン効かせてないんだ
 まあ、入って、入って」
日野に促され
「お邪魔しまーす」
俺は靴を脱いで生ぬるい室内に入り込む。
何度か遊びに来た事はあるのだが、その時は日野のお祖母さん(と言っても、俺の婆ちゃんより随分若い)が迎え入れてくれて焼きそばやホットケーキなんかをご馳走してくれた。
今、室内は静まりかえって人の気配がない。
『何か、寂しいな…』
俺の家だって共働きで家に人は居ないがクロスケが居てくれたし、今はカシスが居る。
『お祖母さんの入院中は、もっと頻繁に遊びに来よう』
そんなことを考えながら日野の部屋に入った。
「お、コーラも買ってきてくれたのか、気がきくじゃん!
 よし、これは今飲もう
 牛乳系はいったん冷蔵庫に入れて、っと
 今、コップ持ってくるな」
日野は機嫌良くビニール袋の中身をより分けると、部屋を出ていく。
それは、いつもの日野の態度と変わらないものであり、俺は安堵してしまう。

部屋の中央のガラステーブルにノートや教科書を広げると、程なく日野が氷を入れたコップを持って戻ってきた。
コーラを注ぐと
「夏休みの宿題に、乾杯」
日野はおどけてコップを合わせた。
「そんなもんに乾杯する気にならないって」
俺は文句を言いながら、コーラを口にする。
喉を流れる炭酸の刺激が、心地よかった。

「で、どれ、どこがわかんないの?
 頼れるお兄ちゃんに聞いてみな」
日野が自分の胸を指しながら、威張った声を出す。
俺も日野も一人っ子なので、なんとなくお互いのことを『弟』みたいに感じていた。
「うーんと、5ページ目のここと8ページ目が3問、9ページ目2問
 後、ここらへん全滅…、日野先生、頼みます!」
俺は素直に頭を下げる。
「何だよ、後半全滅じゃねーか
 写すだけじゃ覚えないぞ?何がわからない?」
呆れた顔の日野に
「何がわかんないかわかってりゃ、調べようもあるよ
 つか、この問題、日本語?」
俺はムクレてみせる。
「そこからかよ!
 荒木ちゃんはしょうがねーなー
 ここはお兄ちゃんが解説してあげるとするか」
日野は得意げな顔になって、一緒にノートを覗き込む。
俺達は、それから暫く数学の教科書と睨めっこを続けるのであった。
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