しっぽや5(go)

□秋を走る
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マラソン大会前日、早朝から運転すると言うことで俺と黒谷は2時に仕事を上がらせてもらった。
ちょっと大げさだな、と思ったものの
「後は俺とタケぽんがやっとくから、お前はコンディション整えてとけよ
 人を乗せて運転するって、マジで気を使って疲れるぜ
 マラソンで走る前に疲れちゃったら、意味ないだろ
 近戸も久しぶりに大会で走るって楽しみにしてるし」
荒木はそう言ってくれた。
「悪いな、お土産買ってくるから後はよろしく
 公式大会じゃないけど、大会で走るの初めてだから俺も楽しみにしてるんだ
 タイムは気にしないようにして楽しく走りたいよ」
俺はそう答えたが、最後はテンション上がってムキになって走ってしまいそうだった。
そうならないよう、給水所でフルーツを食べてクールダウンしようと自分に言い聞かせる。
疲れを残しすぎないように走りたかった。

「だから、今夜は程々にして早く寝なよ」
荒木に耳打ちされ
「わかってるって」
俺は呟くように返事を返す。
流石に前日に体力を使い果たすような羽目にはなりたくなかった。


早い時間に黒谷と共に事務所を後にする。
直ぐに帰らず明日の準備のための買い出しに、2人でスーパーに向かった。
「えっと、車内で飲み食い出来そうなスナックやペットボトルも一応持っていこう
 飲みものはスポドリだけにしとくか
 干し梅、飴、バナナとカステラもあった方が良いかも
 給水所でフルーツや漬け物出してくれるけど、何か遠足気分で色々持って行きたくなっちゃうんだよな
 持って行かなければ事務所のおやつにすれば良いし
 あ、期間限定の味が出てる、これも買っちゃえ」
スーパーの商品棚の前では目が欲しがってしまい、必要以上にかごに入れてしまった。

「運転しながらでも食べられると言えば、おにぎりですよね
 ラップで包んで握れば手も汚れないし
 おかずはピックで刺せるもの、ウインナーやミートボール
 卵焼きにハムキュウリ、アスパラベーコン、ミニ唐揚げ
 プチトマト、ブロッコリー、香(こう)の物もピックに刺せますね」
黒谷は黒谷で弁当食材に目移りしまくりだった。
おかげでいつもの買い物より、3倍くらいの量の荷物になる。
「今から贅沢しちゃった」
俺が舌を出すと
「たまには良いですよ」
黒谷は嬉しそうに笑ってくれた。


部屋に帰って俺が荷物を準備する間、黒谷は食材を処理していた。
俺より早く起きてお弁当を作ると意気込んでいる。
申し訳なく思うものの
「日野は運転してくださるのだから、僕より大変ですよ
 僕はいつもと同じ事しかしませんし
 日野が美味しく食べてくだされば嬉しいです
 飼い主のお役に立ってますか?」
黒谷は首を傾げて聞いてきた。
「メチャクチャ役に立ってる
 俺は?良い飼い主?」
そう聞き返すと
「もちろんです、日野はどの飼い主よりも最高の飼い主ですから」
キッパリとそう答えてくれた。

「今日は10時頃には寝ちゃいたいけど、1回くらい出来るよね」
俺は黒谷に抱きついて囁いた。
「明日のことがありますから、1回で我慢するようにいたします」
黒谷も俺を抱きしめて囁き返す。

俺達は早めの夕飯を食べた後、その熱い約束を果たして眠りにつくのだった。



当日は、早朝から車で会場に向かった。
途中で近戸と遠野を乗せ、車内で黒谷特製朝ご飯弁当を食べる。
「エントリー、ギリギリ間に合って良かった
 急に思い立ったからさ」
「会場がそんなに遠くないと、手軽に参加できて良いな」
「でもさ、泊まりがけで遠いとこの大会に参加するのも面白そう」
「島でやるのも観光を兼ねてて良さそうだよな」
「日本縦断フルーツマラソン参加、とかもやってみたい」
「いずれは海外とか」
「気軽に参加できる大会があるって、嬉しいよね
 参加する倍率高いのもあるけどさ」
車内は黒谷の料理に舌鼓を打ちつつ、マラソン話に花が咲いていた。

「2人が参加してくれると思わなかったから、マラソン大会とは言え一緒に走れるなんて凄く嬉しいよ
 バイトの休み取ってくれてありがとう」
俺は改めて礼を言い
「でも、目立っちゃうのヤバいんじゃない?
 ローカルだろうけどTV局の人も来そうじゃん」
心配していることを告げた。
「大丈夫だと思うけどなー、日野が思う程、俺達有名じゃないって
 双子だから目立ってたんだろ」
「俺、今は髪伸ばしてるし、服装もチカと雰囲気変えてるから
 それに市井(しせい)の大会でもプロの選手が参加したりして目立ってくれるから、俺達なんて十把一絡(じっぱひとから)げだよ
 それより、黒谷の全力疾走は無しだからね、短距離ならまだしも長距離じゃそっちの方が目立っちゃう」
「猟犬のスピードで長距離を走られたら、オリンピック選手だって叶わないもんな」
双子の言葉に
「不審に思われないよう、気をつけます」
黒谷は神妙な顔で頷いていた。
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