しっぽや5(go)

□続いていく物語
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side<NOSAKA>

伊古田という恋人兼飼い犬が出来た僕は、彼とずっと一緒に居たくてたまらなかった。
しかし僕の家と伊古田の家は離れているし、僕には大学があり彼には仕事がある。
気兼ねなく会える状況ではなかった。
せめて毎週末、伊古田の部屋に泊まりに行きたかったが、母を説得できずにいた。

驚いたことに僕にはあまり関心が無いと思っていた父の方が理解を示してくれたが、母には強く出れないようであった。
「お前もついにそんな年になったか、好きな人が出来たんだろ?
 そりゃ、一緒にいる時間が欲しいよな
 ママは変なとこ鈍感でさ、俺も振り向いてもらうまで苦労したんだ 
 子育てはママに任せっきりだったから、今更口を挟みにくくて」
苦笑しながらこっそり打ち明けてくれて、僕は初めて父のことを身近に感じる事が出来た。
「一気には無理だから、徐々に何とかしていくよ
 とりあえず、成績は絶対落とさないようにする」
僕がそう答えると
「お前、良い顔になってきたな
 良い恋してるのがわかるよ
 今まで口答えしても、基本ママの顔色窺ってばっかりだったから」
そう言ってくれて、父親が僕のことをちゃんと見いてくれた事を知り、泣きそうになってしまった。
「頑張る!」
「頑張れ!」
そんな親子の会話が出来るようになったのも伊古田のおかげだ。
彼の存在は僕にいつもプラスの状況を運んでくれるのだった。



念願の伊古田の部屋に泊まれる週末。
移動する電車の中、僕はいつになく緊張していた。
『この服の組み合わせ、変じゃなかったかな
 一応お揃いシリーズだけど、発売時期が違うものだし
 お土産は近所のケーキ屋さんの焼き菓子…って、有名店の方が良かったのかも
 いや、でも、そんなのは食べ飽きてるだろうから
 そもそも甘いものじゃない方が良かったのかな』
こんな風に緊張しているのは、超有名デザイナーのイサマイズミ先生に会うからだ。
彼も化生の飼い主で、伊古田の服を用立ててくれていた人であった。


『あのね、和泉が野坂に会ってみたいって言ってるんだけど、次の週末に来てもらって良い?』
電話で伊古田にそう切り出されたときは驚いた。
『な、な、何で僕に?あんなに有名な人が
 伊古田の飼い方に至らない点があって、不快に思ってるのかな
 僕、動物を飼うの初心者だし、誰かと付き合ったこともないから相応しくないって言われるかも』
僕はパニックを起こしていた。
動揺のあまり持っていたスマホを落とさなかったことは、今考えても奇跡的だった。
『そんなこと和泉に言わせない
 野坂は僕を飼ってくれる良い飼い主だってちゃんと言うよ
 久那に怒られても野坂のためなら、僕、頑張れるから』
弱虫だった伊古田の逞しいセリフに、僕はちょっと感動してしまった。
直ぐに心が落ち着いていく。
『うん、ありがとう
 何を言われるか不安だけど、僕も伊古田が一緒なら頑張れる
 何て言われても、伊古田は僕が飼うって言うよ』

と、格好良く言い切ったものの基本ヘタレの僕は、マンションが近くなるに付け不安が増していった。
伊古田の部屋にたどり着き彼の顔を見たとたん、緊張の糸が切れて玄関先にうずくまってしまった。
「野坂、野坂大丈夫?具合悪いの?今日は会えないって和泉に連絡する?」
慌てた伊古田が僕を抱きしめて安心させるよう髪を撫でてくれる。
彼の広い胸に抱かれていると徐々に気持ちが落ち着いてきた。
「ありがとう、大丈夫、他の飼い主に会ったときはこんなに緊張しなかったんだけど
 さすがにあの人みたいに格の違う大物(おおもの)はね」
僕は甘えるように彼の胸に頬擦りする。
「?三峰様の方が大物だって、和泉はよく言ってるよ
 僕もそう思う、三峰様の方が怖いし」
不思議そうな伊古田の手を借りて立ち上がった。

「先生たちが来るまでに、お湯を沸かしておこう
 ランチ、買ってきてくれるんでしょ?スープと味噌汁、どっちが良いのかな、どっちもインスタントだけど
 お茶と紅茶はどっちにしよう、ウーロン茶の方が何にでも合うか」
「取り分け用の小皿とお箸も用意しないとね
 野坂とシェアして食べるときの必需品だもの」
僕達は先生たちが来る前に、大急ぎでささやかな食卓の準備を始めるのだった。



テーブルの準備が整い、伊古田が反応した直ぐ後にチャイムが鳴った。
化生達は気配で存在を感じることが出来るのでチャイムの意味は無いのだが、礼儀としてチャイムを鳴らしたりノックしたりしているのだ。
伊古田の後ろから僕も玄関に向かいイズミ先生を出迎える。

『本物だ…』

背は高くないが若いような老成しているような整った顔、片側だけ垂らしまとめられたさほど長くはない茶髪。
同じへアースタイルでも対になるよう逆側に白茶の長髪を垂らしている、煌びやかな顔つきの長身の彼はマネージャー兼専属モデルだ。
玄関先にはテレビや雑誌で見たことのあるイサマイズミとKUNAが颯爽と佇んでいるのだった。
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