しっぽや5(go)

□これから始まる物語〈3〉
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大麻生の服を彼の飼い主が着付けてくれた。
「よし、ワイルドさの中にあるお茶目感引き立つスタイリング
 和泉センセには真似できないウラ流コーディネート、完成!
 ソウちゃんの服なのに、違った着こなしが出来て面白いな
 髪はもうこれ以上イジりようがないし、キャップ被らせるか
 後は肉球柄のイヤーカフスな」
鏡に映る自分を見てもよく分からなかったが
「格好良くしてくれてありがとう」
そうお礼を言った。

大麻生の部屋を後にして、僕は白久の部屋に向かう。
白久の部屋には既に明戸も来ていて、僕を待っていた。
「遅くなってごめんなさい」
慌てて2人に謝ると
「いいえ、待ち合わせの時間より早いですよ
 明戸とはちょっとした作戦会議をしていました」
白久は微笑んで答えてくれた。
きっと2人で飼い主を喜ばせる作戦を立てていたのだろう。
「んじゃ、サクッと行こうか
 俺はチカの学校には行ったことないんで、白久、案内頼む」
「お任せください」
僕達は連れ立ってお祭り会場に向かって行った。



電車を何度か乗り継ぎ、駅に着く。
お祭りがあるのに改札を出ても、浴衣(ゆかた)姿の人は全く見あたらなかった。
屋台の気配はなく、太鼓の音も聞こえないし提灯も飾っていない。
質素なお祭りのようだ。
僕の疑問に
「大学の構内でのみ催されるお祭りですから、町中は静かなのでしょう
 あ、あそこのバーガーショップには、何度か荒木と食べに行ったことがあるんです
 うちの方にはないチェーン店なので、珍しいメニューもあるんですよ」
白久はそう答えてくれた。
「あの店、チカもバイト前によく腹ごしらえするって言ってたな
 入ってみたいけどお祭りで屋台が出るらしいから、我慢するか」
「荒木はサークルには入っていないけど、映画研究会の催しを手伝うと言っていましたね
 焼きそばの鉄板の隅でオムソーセージを焼くらしいです」
「チカも一緒に手伝うって言ってたよ、焼きそばに乗せると他の屋台と差が出て受けそうだって」
2人が言っていることはよく分からないけれど、楽しそうで美味しそうな話だった。


話しながら暫く歩くと、お祭りらしく人が多い賑やかな建物が見えてきた。
門の所に作り物の花が飾ってあり、看板が出ている。
沢山の人が楽しそうに歩いていた。
僕達は門の所で招待券を渡し、中に入っていく。
門の中はとても広く、しっぽやの近所とは違い建物と建物の間が空いている。
そこにポツリポツリと屋台が点在していた。
狭い場所にギッシリと並ぶ屋台があるお祭りしか知らなかった僕にとって、とても珍しい光景だった。

「伊古田、この場所はどうですか?建物は新しく清潔で構内に緑も多く、爽やかな良い環境だと思います
 このような場所で勉強できる事は恵まれていますね」
貧しい時代を知っている白久の言葉に、僕は頷いた。
「それにここ、暖(あたた)かい雰囲気の場所だと思う
 三峰様のお屋敷より町中の方が暖かいからかな、今日は天気も良いし心までポカポカしそう」
白久に言われたからだろうか、急にこの場所がとても素晴らしい場所のように感じられてきた。
そんな僕を見て、白久と明戸は何やら頷き合っている。
「気に入っていただけたようで良かったです
 荒木に到着のメールをしましたので、待ち合わせ場所に移動しましょう」
屋台から漂ってくる良い匂いの誘惑と戦いながら、僕達は待ち合わせ場所に移動した。


「荒木!」
「チカ!」
飼い主を発見した2人は弾んだ声を出して走り寄っていた。
「こんにちは、今日は招待してくれてありがとう」
僕も2人に近づいてお礼を伝える。
「流石はウラのコーディネート、伊古田、いつもより格好良く見えるよ
 サイズ合ってなくても、こう着ればそれなりに見えるんだな
 大麻生が着てるときのお堅いイメージとは全然違う」
「確かに格好良いな、着方によってこんなに違うものなのか
 今度明戸に俺の昔の服着せてやってみようかな
 自分だと絶対出来ないかわいい系の着こなしとかさ」
2人は僕の格好を誉めてくれた。

「じゃあ、行こうか
 構内案内しがてら食べ物ゲットしよう、お腹空いたよ
 オムソーセージ焼きそば盛況で、朝から2人で100本以上焼いたんだ
 自分たちが食べる暇なんて全然無くてさ
 やっと抜けさせてもらえた」
「そうそう、美味そうなもの作っ
てるのに食べられないって悲しいよ
 これ、明日の分の材料まで使い切る勢いだよな
 追加分の材料、うちのスーパーで買うよう言ってみるか
 在庫確保出来れば良いけど」
2人は文句を言いながらも、とても楽しそうだった。

「俺たちの友達も合流して良いかな、日野抜きなんで人数いないと色んな種類食べられないと思って声かけといたんだ
 化生のこと知らなくても、皆、良い奴だから大丈夫だよ」
依頼人以外に化生を知らない人間とほとんど交流がなかった僕は、荒木の言葉に嬉しさを覚えるのだった。
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