しっぽや5(go)

□近い未来
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side<ARAKI>

そろそろ梅雨も明けようかという時期になってきた。
課題と夏休みの旅行の予定、しっぽやでのバイト、大学1年目の夏休みは忙しくも充実しそうな予感に満ちあふれている。
受験を終えたご褒美に相応しい楽しい休みになれば良いな、と今から俺はワクワクしているのだった。



大学の講義が終わり、今日も俺と近戸は駅チカのバーガーショップでお互いの化生に対する情報交換に勤(いそ)しんでいた。
今日は23時までバイトがあると言う近戸は、ガッツリと季節メニューのバーガーセットを頼んでいる。
俺はこの後しっぽやでバイトがあるのでお茶の時間を見越してドリンクだけにしようと思っていたのだが、近戸につられてチキンナゲットを頼んでしまった。
限定ソースがチーズアボカドだったせいもある。
「白久のアボカドとエビのサラダを思い出すけど、やっぱ白久が切ってくれるフレッシュアボカドの方が断然美味しいや」
ノロケる俺に
「アボカドって森のバターなんて言われるけど、犬、猫、鳥には厳禁なんだってさ
 毒性が強いらしい
 それ考えると人間って丈夫だよな
 人間の体と一緒だって言われても、明戸に何をどこまで食わせて平気なのか未だに悩む」
近戸は難しい顔をして首を捻っている。
「そう言えばそうか、今までアボカドってそんなに食べなかったから気にしてなかった
 でも、白久は俺と同じ物一緒に食べて体調崩したことないよ
 俺が飼う前はタマネギとか警戒してたみたいだけどね」
俺の言葉に
「皆野はその辺は気にせず料理してたっけ
 元の飼い主が作ってた物を再現してみたかったんだろう」
近戸は頷いた。

「いつも4人でご飯食べるの?皆野も料理上手だから美味しいだろ
 でも、白久だって負けてないから
 最近は犬の化生の料理の腕、メキメキ上がってるんだぜ」
俺が笑うと
「あ、うん、皆野の料理美味しいよ、煮物とかホッとする味でさ
 明戸は皆野の補佐の方が多いけど飾り切りって言うの?人参を花の形に切ったりカマボコを波っぽく切ったり、そんなのがすごく上手くなってきてて目にも華やかなんだ」
近戸は照れくさくも嬉しそうに笑っている。
「いつも4人で一緒に食事したり話したり、本当に楽しくてさ
 俺たち、お互い双子で良かったな、なんてしみじみ思たりするんだ
 何て言うか、俺たち、ずっと一緒に居たいよねとか
 俺はまだまだ頼りないけど明戸を守りたい、とか
 あんまり先のことはまだ霧の中だけど、明戸はそれでも待ってるって言ってくれるし
 それで俺たちさ、あの、えっと…
 ニットリとかイケイアとか行ってみようかって話してるけど、フェリシモンの小物も悪くないし
 通販の方が楽かな、とか悩んでるというか」
モジモジし出した近戸の話していることは、ちっとも要領を得なかった。
「何だよ、近戸、言いたいことあるならハッキリ言って良いから
 お前の方が頭良いんだし、簡潔にわかるように言ってくれよ
 話題が飛びすぎて何言ってんだか全くわからないって」

何か言いにくいことがあるのはわかるが、それが白パンの時のような深刻な事態では無いことは赤くなっている頬を見ればわかる。
照れくさいけど言わなきゃ的なムードが、今の近戸からは濃厚に漂っていた。
近戸は自分を落ち着かせるようコーラを飲んで、大きく息を吸って吐いた。
それから意を決したように
「この前、ミイちゃんが俺たちの部屋に来たろ
 そのときに提案されたんだ、明戸と皆野の部屋を別荘代わりに使ってくれって
 今、彼らが住んでる部屋じゃなく、将来俺たち4人が住もうと思ってたファミリータイプの部屋を用意してくれるんだって
 賃料のことは気にしなくて良いって言ってくれてるから、ここは甘えて出世払いにしてもらおうと思ってる」
そんな驚くようなことを口にした。
「もちろん、今から住むって話じゃなくてちゃんと同棲するのは大学を卒業してからになるけど
 希望するような就職先が見つかるのを待っていたらズルズルと遅くなりそうだし、良い機会だと思うんだ
 これからは俺もトノも今までのバイトをしながら、新しい2人の部屋に通うよ」
断言する近戸の顔は大人びて見えた。

「焦ってブラック企業に就職して、健康を損なうのもバカらしいかなって思ってさ
 いざとなったらこっちでバイトしながら就職先探しても良いかも、ってナリやモッチーと話してて吹っ切れたんだ
 この近くのスーパー、俺のバイト先の店と同系列だから、移るとき口利いてもらえそうだし
 トノがバイトしてるコンビニなんて、それこそどこにでもあるから経験者優遇してくれるんじゃないかな
 まあ、ナリみたいな特技もないのにバイト生活って甘い考えだけどね
 地方公務員の試験も受けようとは思ってる」
近戸のしっかりとした将来の夢的な事を聞かせてもらい、しっぽやに甘えっぱなしの俺は恥ずかしくなってしまうのだった。
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