しっぽや5(go)

□古き双璧〈11〉
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side<MINANO>

それは軽い思いつきだった。
トノが私の着ている服のことを聞いてきたので和泉の話をしているうちに
『私とトノの服をコーディネートしてもらったり、私達4人を対コーデしてもらえたら面白いかも』
ふと、そう思ったのだ。
私達4人がランチを食べにお店に入ると、店員さんや他のお客さんが驚いた顔になることがあった。
もし同じ服を着ていたらもっと驚かれるんじゃないかと、私達はよく語り合っていた。
和泉のところであればサイズの違う同じ服が沢山あるだろう。
お店デートでトノと選ぶのも楽しそうだったけど、トノが望むような物を私が選べるか不安だったので、初めては服のプロに任せた方が無難なのではないかとの思いもあった。
無理なくトノとお揃いの服を着て町を歩けるかもしれない。
それを考えるだけで、胸が躍るようだった。

しかし久那に電話をかけて相談しようとしたら、私達4人がモデルになるという思ってもみなかった展開に発展していった。
何だかよくわからない流れだけれど、トノはもっと訳が分からないようでチカと一緒にオロオロしていた。
「トノ、今の電話の相手って本物のイサマイズミだったの?」
「や、俺、彼の声とか知らないからそう言われると…」
「モデルってどんな服着て、いつやるんだ?」
「話し的には、こっちの都合に合わせる感じの流れだったけど
 詳しいこと言わずに切られちゃったから、全く分からない
 移動費と宿泊費を出すって言ってたし、泊まりになりそうなんだ」
「と、泊まり?俺達4人でってこと?明戸と一緒に泊まるの?」
チカが明戸を見て真っ赤になっていた。
トノも私を見て同じ様な顔になっている。
「トノ、折り返しかけて、そこだけはきっちり確認してくれ」
「無理だよ、何か周りがザワザワしてたし急いでたみたいだから、出先からかけてたっぽい」
トノとチカが困っている様子なので
「和泉が強引ですみません
 お2人は学生だしバイトがあって忙しいって、断りましょうか?」
私はオズオズと聞いてみた。

「いや、せっかくの機会だしやってみたいとは思うよ
 ただ、その、泊まりがけって、どうかなと言うか
 皆野と泊まるの緊張するし、俺、どうしたらいいのかなとか…」
ゴニョゴニョ呟いているトノの背中をチカがバシッと叩き
「トノ、きっと民宿みたいなとこで4人で雑魚寝だって
 俺まで緊張するからやめろよ
 それよりも日程早く決めないと向こうに迷惑なんじゃないか?
 バイトのシフトどう?週末に連休もらえそう?
 俺は前の週に6勤でもして、拝み倒して入れてもらおうと思ってるけど」
真剣な顔で話しかけている。
「そうだな、俺もその手でいくか
 この週だと間に合わないから、次の週とか
 モデルの企画がどんなものかわからないが、早い方がよさそうではあったな」
「だよな、撮影場所や宿泊施設の予約もあるだろうし
 じゃあ明日にでも、確認とって決めちゃうか」
私と明戸にはよくわからない話であったが、トノとチカが次々と段取りを決めていってくれた。
そんな2人を
「チカって頼りになるよな」
「トノも同じです」
私と明戸はうっとりとしながら見つめるのであった。




翌日のしっぽや控え室。
私達はかいつまんで事の成り行きを皆に報告していた。
「電車での旅、良いものです
 流れゆく景色を眺め荒木と一緒にお弁当を食べ、心地よい電車の振動に身を任せながら飼い主の体温を感じて2人でウトウトする
 GWの旅は移動時から最高でした」
当時を思い出したのか、白久がうっとりしながら呟いていた。
『お弁当』
移動の際には私も明戸もトノとチカに頼りっぱなしになってしまうけれど、お弁当を作っていくことは出来る。
とは言え、そのような場に何を持って行けば良いのかわからなかった。
明戸も私と同じ考えのようで、少し困った顔で見つめてくる。
そんな私達を見かねたのか、控え室で早めのお昼を食べていた黒谷が
「大滝兄弟は陸上やってたから、お米系が良いと思うよ
 日野はランニングのお供にオニギリを作ると、とても喜んでくれるんだ
 電車で食べるとなると、また勝手が違うかな
 新郷が釣りに行くときお弁当作ってるから、彼にも聞いてみると良いんじゃない
 今から聞きに行ってみなよ」
そう提案してくれた。

私達はその言葉に甘え、上階の芝桜会計事務所に向かう。
まだ仕事中であったのに新郷と桜さんは私達に飼って欲しい人間が現れたことを知ると大層喜んで、電車での旅について色々と助言してくれた。
「車だと時間を気にしなくてすむけど、電車移動ならではのまったり感も良いもんだぜ
 桜ちゃんにもたれかかって寝る、なんて日頃出来ないからさ」
「この前は2人して寝入ってしまい、危うく乗り過ごすところだったな」
「あの日は大漁で、さすがに疲れてたからなー
 すんでのところでアナウンスに気がついて、聴覚鋭い犬の面目躍如って感じだったっけ」

微笑みあって思い出を話す2人を、私も明戸も羨ましく見つめるのであった。
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