しっぽや5(go)

□古き双璧〈3〉
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side<AKETO>

捜索の予約があった日、いつもより早めに朝ご飯を食べて出勤することにした。
皆野も俺に付き合って早めの朝食を食べている。
それはいつもと変わらない朝の風景であった。

「お昼用に、オニギリくらい持って行った方が良いのではないですか?
 ご飯は残ってるしフリカケもあるから、すぐ作りますよ」
卵焼きを食べながら皆野が尋ねてくる。
「大丈夫だよ、何時にキリが付くかわかんないしさ
 コンビニかスーパーで適当に買って食べるって
 速攻発見してランチの時間に間に合えば、駆けつけた白久が感激して寿司でも奢ってくれそうだしな」
俺が笑うと皆野も楽しそうに微笑んでいた。
「カリカリでも食べられれば、携帯食にもってこいなんだけどなー
 空は携帯食ならパワーバーって言うの?カロリーフレンドとかクリームブランとかそんなのが良いって
 でもあれ、大きくてボソボソしてるじゃん」
俺は肩をすくめてみせる。
「犬はビスケット的なもの、好きですからね
 私もひろせが作るようなバターたっぷりのクッキーでもないと、味気なく感じますよ」
「だよなー、やっぱ皆野はわかってる」
俺達は見つめ合って笑いあう。
誰よりも近しい存在の皆野が居れば、俺の孤独は和らぐのだった。

「今回の依頼内容、けっこうシビアですね
 こんな時に捜索に出れない自分が歯がゆいです」
箸を止めて皆野は俯いてしまう。
「白久が『クロスケ殿と同じかも』って懸念してたもんな
 俺も猫だった時を思い出したよ
 ほら、隣にいた婆さん猫」
「ええ、亡くなる1週間くらい前に姿を消しましたね
 飼い主の方、とても心配してうちの家にも何度も来てました
 あのお方も飼い主と一緒に探し回ってましたっけ」
「古い時代の田舎で、猫は放し飼いだったからなー
 事故に遭う猫も多かった
 今回は室内飼いだったのに、自分で無理矢理外に出たってことは…」
俺達は黙り込んでしまう。
「本猫的には不本意だろうけど、何とか見つけて飼い主のとこに連れ帰るよ
 たとえそれが骸でも…
 荒木はそれでも見つけてくれた白久に感謝してたからさ
 さて、もう行くか
 きっと荒木と白久はもう事務所に居るんじゃないかな、寸暇を惜しんで会いたがってたみたいだし」
俺は湿っぽい話を打ち切り食器を片づけると、身支度を整えて事務所に向かうのであった。



ノックして事務所のドアを開けると、思った通り白久と荒木の姿があった。
2人は堅く抱き合って唇を合わせている。
俺は昨日の報告書を黒谷に手渡した。
「おはよう、皆野が居なくても頑張ってくるよ」
「おはよう、よろしくお願いね
 これ今回分の書類だよ、荒木の知り合いだし後日郵送でもかまわないって伝えて
 料金も荒木がバイト代との差し引きにしたいって言ってるから、報告書だけでも済むけどね
 まあ、その辺どうするかは依頼主さんと相談の上ってことで」
渡された書類を鞄にしまっていると、荒木が俺の元にやってきた。
白久との抱擁は終わったようだ。

「おはよ明戸、今日はよろしく頼む
 皆野の代わりは勤まらないと思うけど、俺も捜索手伝うから出来そうなことあったら何でも言って」
真剣な顔の荒木に
「おはよ、俺がサクッとランチ前に発見できたら駆けつけた白久に寿司を奢らせるってのどうかな
 お勧めの店あったら教えてもらえると嬉しいぜ」
俺は安心させるよう軽い感じで言ってみる。
「近戸が地元だし、良い店知ってると思うよ
 あ、近戸って今回の依頼主
 大滝 近戸(おおたき ちかと)っての、ちょっと明戸と名前被ってるかな
 猫好きの良い奴だから、きっと明戸のことも気に入ると思うんだ」
荒木の表情が少し緩んでくれた。

「明戸、大トロでも中トロでも何でも好きな物を奢りますので、よろしくお願いします」
白久が真面目な顔で告げた後
「暫くは明戸専用の布団になります
 捜索の後は、ゆっくり休んでください」
そんなことを言い出したので、黒谷が慌てて止めていた。


9時前に事務所の階段下に行くと、ナリの車はすぐにやってきた。
乗っていたふかやとすれ違うかたちで、俺と荒木が後部席に乗り込んだ。
「おはよう明戸、今日は病院に行くわけじゃないから安心して乗ってていいからね」
ナリはミラーで俺を見てクスクス笑っている。
「依頼人の家に車を置けそうなら、私も捜索に加わるよ
 人間への聞き込みとか、人出は多い方が良いかなって思ってさ
 明戸と連携を取ることは出来ないけどね」
ナリの言葉で
「やった!タケぽんより頼りになるナリが一緒だ!
 人間方面のサポート万全じゃん」
荒木のテンションが上がっていた。
「人間と一緒に捜索するなんて初めてだ、何か責任重大」
俺は苦笑するが、猫好き2人のサポートなら案外面白い展開になるんじゃないかとも思うのだった。
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