しっぽや5(go)

□新業務奮闘記
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依頼内容を復唱し、それを聞いている黒谷の態度を見ながら、俺は自分で弘一君の依頼を受けることにした。
『実際に秋田犬を飼ってる弘一君も一緒だし、犬の世話の手伝いなら出来る!』
タケぽんとは違う形だけどしっぽや実務を手伝えそうで、俺は燃えていた。

「あの…、私もご一緒してもよろしいでしょうか
 料金は荒木の分だけ貰うことにして、私は無給で良いので」
白久がオドオドと問いかけてくる。
「そのブリーダーなるところには、子犬が8匹もいるとか
 荒木が年若いもの達の方が魅力的だと気が付いてしまうかも
 あのもの達は、ただ歩いているだけ、座っているだけ、眠っているだけで人間を虜に出来るのです」
白久の必死な言葉に
「シロ!分かる、痛いほどよく分かる!
 僕も以前、偶然にも捜索の途中で甲斐犬の子を見たとき、同じ危機感を抱いたよ
 1匹でもあの破壊力、それが8匹もいるなんて恐ろしい…
 行きたまえシロ!君の方が荒木の役に立つところを見せるんだ」
黒谷はそう答え、2人はガッシリと手を握り合っていた。
「子犬より、成犬の方が役に立つことを立証してきます!」
「頼んだぞ!子犬は真っ直ぐに歩くことすら覚束(おぼつか)ない頼りない存在だと思い知らしめてきたまえ
 ああ、しかしそこがまた、人間の庇護欲をそそるのだ」
自分達だってそんな稚(いとけな)い子犬時代があっただろうに、白久と黒谷は子犬に対して対抗心を燃やしていた。

妙な方向にテンションが高まって小芝居を続ける飼い犬を見ながら、俺と日野は逆に冷静になっていく。
「特殊能力無くても出来そうな仕事、知り合い限定で引き受けるのは有りだね
 そうすれば、俺と日野もしっぽやで戦力になるじゃん」
「多角経営してかないと、依頼が来なかったときとか1件で時間がかかりすぎたときとか厳しいもんな
 かといって、所員全員が子守に駆り出されたら肝心の捜索が出来ない
 様子を見ながらバランスとって受け付けよう
 HPには載せないで、知り合い限定サービス的な扱いでやってみるか」
「だな、ただ俺と日野がある程度、大学生活に慣れてからじゃないと厳しいか
 最初はどれだけバイトに時間とれるか、わかんないし」
「とにかく、ブリーダーの所に手伝いに行ったら『やること、かかる時間、難易度』そんなことを教えてくれ
 漠然としすぎてて、料金設定すら出来ないから」
「了解」
俺達だけで新業務について話をまとめていった。

白久と黒谷はと言うと、空からの中間報告の電話を受けて我に返っていた。
『ゴミ屋敷から犬の保護完了だぜ
 現場に子犬も居るんだけど、こいつら俺のこと兄弟だと思ってんの
 ほら、俺って小さくて可愛い愛玩犬じゃん?
 一番のチビにするみたいに踏みつけてくるし、舐めてきて…やめろ、そこ、マジくすぐったい
 髪、引っぱんなって』
受話器から空のゲラゲラ笑う声が響いている。
「子犬より破壊力のある奴が居たな…」
「精神年齢が近いので、空は子犬の保護には役立ちますね
 警戒心を解いてくれます」
黒谷は電話をふかやに代わらせて、現場の状況を確認し指示を出していた。

俺と白久は翌日の仕事に向け、打ち合わせを始める。
「タケぽんみたいには手伝えないけど、2人で仕事できるの嬉しい
 頑張ろうね」
「はい、荒木のお役に立てるよう頑張ります」
「まずはブリーダーさんの役に立たなきゃ、だよ
 とりあえず、いつものスーツじゃなく汚れても良い服で行こう」
「何を選べばよいでしょうか、このような時は白ではない方が良いのですよね」
話し込む俺達を横目に
「黒谷と一緒に出来る実務の依頼、何か来ないかなー」
日野はソファーに座ってため息を吐いてみせるのであった。



翌日の朝。
カズ先生が事務所まで迎えに来てくれることになっていたため、俺と白久は大野原不動産の前で車の到着を待っていた。
白久が持っているバッグにコンビニで買い込んだ飲み物、スマホや財布、着替えを入れ準備万端であった。
すぐにカズ先生の車が俺達の側に停車した。

「2人とも、おはよう
 変則的なこと依頼しちゃってすまなかったね、受けてもらえて助かったよ
 ドア開けて、後ろに乗って」
カズ先生が窓越しに話しかけてきた。
「おはようございます、お役に立てるよう頑張ります!」
俺も挨拶を返しドアを開けると先に白久を乗せて、自分も乗り込んだ。

「おはようございます」
助手席から弘一君が挨拶してくる。
暫く会わなかったせいか、少し大人びて感じた。
「おはよ、今年3年だよね、来年は受験だ
 もう学校決めたの?」
俺が聞くと
「荒木先輩の高校行きたいけど、家からだとちょっと遠くて迷ってます」
そんな答えが返ってくる。
「うん、まだやりたいこと決まってなければ、通学しやすいって言うのも大きいよ
 うちを受けるなら今年2年の奴を紹介するから、色々聞いてみな」
俺はちょっと先輩風を吹かしてみせた。

「荒木先輩のアドバイスも欲しいです」
後輩から頼られるシチュエーションに、満更でもない気持ちになるのだった。
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