しっぽや5(go)

□タケぽん奮闘記
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カズハさんは紅茶に詳しくて、お菓子作り用に色んな茶葉を分けてくれるありがたい人でもある。
せっかくなので総菜売場をウロツきながら、ひろせのクッキーのことを相談してみることにした。

「なるほどね、どうせなら色と香りや味が合っていた方が良いかも
 香料なんかはネットで探した方が種類が多いと思うよ
 でも、味が違うカラフルクッキーも面白そう
 だって、ちょっと化生みたいじゃない?
 空だってあんなに素敵で格好いいのに、中身は可愛らしくてお茶目なんだもの」
焼き鳥と煮豚、どちらにしようか悩んでいる空を見るカズハさんの目は優しかった。
空の中身が可愛いかどうかは置いておいて
「ですね、フェイククッキーっていうのも面白そう」
俺は同意する。

「灰色の生地を作れたら、ハスキークッキーを作ってみて欲しいな
 全身灰色だと狼犬と区別付けにくいか
 ハスキーはあの柄がチャームポイントだもんね」
「長毛猫よりは分かって貰えるんじゃないですか
 長毛っぽいクッキー型って見たことないし、あっても見た人皆『ペルシャ?』って言うと思いますよ」
「うーん、確かにそうかも
 猫ってシルエットで区別つかせにくいから」
「でも、しっぽやの皆をクッキーで再現できたら可愛いだろうな」
カズハさんとの会話で、俺はそんな夢を思い描いていた。

「カズハ、これに決めた、この量なら食べきれる!
 カズハは何にする?」
満面の笑みを浮かべた空がカゴを持って近づいてきた。
食べきれる、と言っているがそこには結構な量が入っている。
軽々と持っているが腕の筋肉の盛り上がりで、重いであろうことが伺い知れた。

「空って、体鍛えてるの?」
思わずそんな言葉が口をついてしまう。
「体力バカの橇(そり)犬じゃあるまいし、ほどほどに身体を動かす程度だよ
 だって俺、トレンディな愛玩犬だもん」
空は笑っているが
「僕に言わせると、かなり鍛えてると思うよ
 腹筋、腕立て、スクワット、ダンベル運動、ランニング、毎日何かしら2時間くらいやってるもの
 前の飼い主さんが健康マニア的なところがあったから、それが人間の生活の当たり前の姿だと思ってるみたい
 ちなみに、橇犬はタイヤ引きずって毎日何10キロも走るのが普通らしくて、陸は走って山を越えて走って戻ってくるのを毎日やってるとか
 1日6、7時間は走ってるんじゃないかな」
カズハさんが耳打ちしてくれて、俺は顔が固まってしまった。
手作りバターを作るため、週に2回くらいペットボトルを15分程度振ってる俺とは、大違いだった。

「何、何?」
カズハさんとの内緒話が羨ましいのか、空が俺たちの間に割って入ってくる。
「タケぽんも、空みたいに格好良い筋肉を付けたいんだって」
カズハさんが言うと
「俺に憧れてるの?タケぽん、目が高いなー
 じゃあ、特別に教えてあげるよ
 これ、これ飲むと良いんだぜ
 俺は朝晩飲んでるんだ、忘れるときもあるけど大丈夫ってカズハが言ってくれたから気にしなーい」
空は秘密兵器を見せるようにカゴからプロテインを取り出した。

「プロテイン?本格的じゃん!ってゆーか、この店、こんなものまで売ってるんだ」
俺は色々と驚いてしまう。
「健康食品のコーナーに置いてあるよ
 専門店じゃないからこのメーカーの1種類しかないけど
 気になるなら見に行ってみて
 ただ、運動しないで飲んでも意味ないみたいだよ
 空はこの店に来ると真っ先にこれをカゴに入れるんだ、可愛いよね」
カズハさんはニコニコしているが、カゴに真っ先にプロテインを入れる犬もどうかと思ってしまった。

「タケシ、空に憧れてるんですか?」
少し拗ねたようなひろせの声で我に返る。
「え、いや、俺も筋肉作ってみようかなーとか、ちょっと思ってみただけ
 ほら、荒木先輩と日野先輩に誉められたし
 ひろせも俺が逞しい方が、もっと気に入ってくれるんじゃないかなって考えちゃってさ」
「今のままのタケシだって、十分素敵ですよ」
ひろせは笑顔を取り戻し寄り添ってきてくれた。


2人と別れ、俺とひろせは先に健康食品コーナーを見に行くことにした。
「こんなとこ、気にしたこともなかったよ
 パワーバーにゼリー、サプリ、粉末青汁、ダイエット関連の食品もあるんだ
 これ効くのかな、効果あるならこんなに色んな種類が無くても良いんじゃ…」
似たような効能が書いてある商品の列を見て、俺は頭がパンクしそうになっていた。
とは言え、プロテインだけはしっかりとカゴにキープする。

「バター作るときだけでも飲んでみようかなって思ってね
 運動してないと意味ないってカズハさん言ってたし」
言い訳のように言う俺に
「でも今は、僕と一緒に捜索に出て走ったりしてますよ
 頼りにしてますからね」
ひろせは微笑んでくれた。
その笑顔を見て
『どっちかと言うと走るより歩く時間の方が多いけど、ひろせと一緒に働けるなら頑張るぞ!』
と喜びの気持ちが走り出すのであった。
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