しっぽや5(go)

□タケぽん奮闘記
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side<TAKESI>

「タケシ、夕飯のデザートに昨日焼いたクッキーの味見をしてもらっていいでしょうか
 上手く出来ていたら、アレンジしてしっぽやにも持って行こうと思ってるんです」
俺の愛猫のひろせがそう話しかけてくる。
高校が春休み中の俺はしっぽやで連日のようにバイトをして、ひろせの部屋に泊まりに行っていたのだ。
今日も仕事の後に当然のように彼の部屋に帰ってきて、持ち帰り弁当での夕飯を済ませた後だった。

ひろせが持っているお皿の上には、色とりどりのアイスボックスクッキーがのっている。
「わ、凄いキレイ!どうしたの?」
可愛いひろせが可愛いクッキーを持っている姿は天上の光景のように尊くて、一気にテンションが上がってしまう。
「かき氷のシロップを使って色を付けてみたんです
 いつもはココアパウダーで色付けしてるから、モノトーン的なものしか作ったことがないので
 双子にはモノトーンが好評なんですけど、ソシオに3色のマーブルを作ってくれって言われて、カラフルなのも面白いかと思ったんです
 ただこれ、見た目はカラフルですが、食べてみたら味が伴ってなくて
 かき氷のシロップって、色が違うけど同じ味なんですか?」
小首を傾げるひろせに
「え?そうかな?俺、かき氷は断然いちごシロップ派なんだけど」
そう答えてピンクのクッキーを摘んで食べてみた。

「うん、美味しい、サクサクほろほろ良い食感
 でも確かに、イチゴって味じじゃないな
 じゃあこの緑は、…うん、メロンじゃない
 加熱しちゃってるから?
 そもそもブルーハワイなんて、何味って例えれば良いんだか意味不明だもんね
 言われてみると、どれを食べても同じ味の普通のクッキーだ
 あれー?屋台のかき氷食べてるときは、イチゴっぽく感じてたんだけどな」
俺も首を傾げてしまう。

シロップの原材料表示を見てもよくわからず、スマホで検索してみたら
「やっぱ、同じ味っぽい
 真っ暗闇でかき氷食べると、何のシロップがかかってるか判断付かないんだって
 考えたこともなかったよ
 自分で気付くなんて、猫の味覚って繊細だね」
俺に誉められて、ひろせははにかんだ笑みを見せていた。

「味が変わらなくても、見た目がカラフルな方が良いでしょうか
 見た目通りの味の方が気分的にスッキリするかな
 緑なら抹茶パウダーで再現できると思うんですが」
悩むひろせに
「スーパーのお菓子作り売場とか見に行ってみない?
 お店、まだ開いてたよね」
俺はそう誘ってみる。
「飼い主との夜のお買い物デート、行きたいです」
ひろせは悩みを忘れた笑顔で答えてくれた。

「荷物持ちはまかせてね、荒木先輩に筋肉付いて逞しくなったって言われたんだ
 日野先輩にもマッスルボディだって誉められたし」
俺は少し大仰に言ってみたが、ひろせは頼もしそうな視線を向けてくれる。
俺たちは意気揚々と夜のスーパーへ繰り出していった。



買い出しでよく行くスーパーではあったが、いつもは和菓子洋菓子コーナー、飲み物コーナー、台所用品コーナーくらいしかしっかりチェックしたことはなかった。
総菜コーナーはひろせの部屋に泊まりに行くときによく見ている。
「あ、コロッケが半額になってる、ってオニギリも半額だ
 唐揚げや天ぷら盛り合わせも半額?!
 夜のスーパーってお買い得じゃない?
 明日の朝食用に買っていこう」
今日はお客が少なかったのか作りすぎたのか、多くの半額品が置いてある。
俺たちは当初の目的を忘れ、総菜コーナーを物色し始めた。

「コロッケ半額だって、唐揚げもオニギリも半額!
 カズハ、買って良い?」
俺の言葉と同じ言葉が知っている声で聞こえてくる。
振り向くとそこには空とカズハさんがいた。
「食べきれる分だけにしておくんだよ、また明日、買いにくれば良いんだから」
カズハさんに言い聞かせられ、空は総菜を穴が開くほど見つめて厳選していた。

「今晩は、今帰りですか?遅かったですね」
俺が声をかけるとカズハさんはビックリした顔で
「あの、えっと…タケ…ぽん?今晩は
 また背が伸びたの?ごめん、事務所じゃないから、一瞬誰かと思っちゃった」
そう言った後、恥ずかしそうに頭をかいていた。
「いや、筋肉が付いたからじゃ…」
と言いかけて、まだ真剣な目で総菜を見ている空の腕を見る。
半袖のシャツからは、スポーツ選手の様な鍛えられた筋肉質の腕が出ていた。
『俺の腕とは、凹凸(おうとつ)の格が違う…』
俺も気恥ずかしくなり
「そうですね、伸びたかも、今まで履いてたズボンの裾が合わなくなってきたから」
そうゴニョゴニョと答えた。

「空、今晩は
 空も飼い主との夜の買い物デート?」
「おう、ひろせ、ばんはー
 今日はカズハが残業だったから、お迎えデート中
 夕飯と朝飯用のおかず買いに来たら、凄いことになっててさ
 目移りしまくり!」
飼い主たちとは裏腹に、ひろせと空は幸せムードで挨拶を交わしていた。
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